【第305回】 武道的な歩法とそのつくり方

人は日常、無意識に何の問題もなく歩いているが、合気道の技の練磨、技が効くように歩を進めるのは、容易ではない。その容易でない最大の問題は、足の使い方、歩き方、つまり歩法の重要さに気がつかないことであろう。足は日常と同じで、自分の体重を支え、体重を移動すれば十分だし、無意識で機能するものだから、足に任せておけばよいと考えているのだろう。

しかし、歩法に関しては、昔から名人達人が注意やアドバイスなどのヒントを残してくれている。例えば、腰で歩く、背中で歩く、足で呼吸しながら歩く、足に目をつけて歩く、等などである。

このようなことが今でも残っているのは、歩法は大事であるということや、それを会得するのは難しいぞ、という意味を持っているにちがいない。それは真理であるはずなので、難しいだろうが武道家として解明し、会得していかなければならないと考える。

合気道の技は手でかけるわけだが、手の操作だけではうまくいかない。厳密にいえば、技は体全体、もっと正確にいえば、心と体のすべてを有機的に連動して使わなければならない。もう少し単純化していえば、足をうまくつかうことである。一般的に、手がうまくつかえても、足はうまくつかえないものだ。しかし、足がうまくつかえれば、手はうまくつかっているはずである。

歩法、つまり足の使い方を、技使いではどうすればよいかというと、歩法によって技が効くようにすることである。足づかいによって、自分の体重を自分の手や相手との接点に懸かるようにするとか、相手の重心を自分の円の中に取り込んだり、遠心力で相手を投げたり抑えたりして、相手をくっつけたり浮き上がられたりすることである。

このように、足に働いてもらうためには、通常の歩き方、足の使い方では無理なので、そのように働いてもらえるような歩法、つまり武道的な歩法が必要になる。

それでは、武道的な歩法とはどんなものなのかを考えてみたいと思う。

○腰で歩く歩法
これは、合気道の原則である、身体は末端から先に動かさずに、中心から動かし、中心で末端をつかうということに、合致するものである。体の中心は腰であるから、腰を動かして足を進めるわけである。そのためには、これも合気道の鉄則であるが、足先と腰は常に結んでいなければならない。
その結びが切れると、足と腰はバラバラに動かざるを得なくなり、体の力が分散してしまう。それでは体の力を集中してつかえないし、相手にちょっと抑えられると、ぶつかって動かなくなってしまう。
腰で歩けば、足は腰の下に収まり、腰は足の上にのる。そして、腰が足の上を左右に移動しながら、歩を進めることになる。これは、氷の上を歩いたり、一本歯で歩く時の歩法である。つまり、足で蹴って進むのではない。蹴って歩めば、氷の上では滑ってしまうし、一本歯でも歩けないものだ。
泥棒さんの抜き足差し足とか、忍者の音を消してあるく歩き方も、この腰で歩く歩法だろう。

〇背中で歩く歩法
腰で歩けるようになり、片方の足に体重がのるようになると、いわゆる一軸で歩けるようになる。足と腰が結んでいたのが、足先から腰を通って背中まで一軸で繋がってくる。これで歩くと、着地したときの足の地面からの抗力を背中で感じ、背中で歩いていると実感できる。これを、背中で歩くというのだと思う。このようなことを長い足という人もいるように、確かに長い足で歩いている感じがするものである。

〇足で呼吸をする歩法
足がポンプになり、足の離着で呼吸をする歩法である。しかし、この呼吸は下腹でやるので、下腹ができていないと難しい。下腹とは、臍から下の腹部である。足の離着により、下腹が締まったり弛んだりするのである。疲れたり、動きに乱れが出たりすると、ハーハー、ゼーゼーと息が乱れるが、それは息を下腹でなく上腹でやるからであって、それを息が上がるというのではないか。

〇足をあおる歩法
足は踵(かかと)から着き、小指の下の小指球、さらに親指の下の拇指球とあおっていき、そして反対側の足を撞木で同じようにあおりながら進めていくが、このあおりの歩法には二つの意味がある。
一つは、体重を横にスムースに移動するためである。この足のあおりがなければ、ぴょこぴょこと縦に凸凹に動くことになり、隙ができるし、体重がうまくつかえない。
二つ目は、さらに武道的に重要である。簡単にいえば、腰が落ちるためである。踵から着地して小指球、そして拇指球に体重がかかると、股関節が開き、腰が落ち、下腹が締まり、身体が安定することである。この腰が落ちて、下腹が締まったところから、抗力で大きな力が出ることになる。拇指球ではなく、小指球や踵では、股関節はつっぱるだけで開かないものである。

歩法にはまだまだ大事な事があるだろうが、それはこれからの稽古に期待することにして、取りあえずは上に挙げたことに注意しながらやってみるとよいだろう。