【第299回】 基本準備動作を見直す

開祖がご健在の頃の本部道場での稽古を思い出してみると、当時と当今の違いの一つにあげられることとして、今は稽古の前に「基本準備動作」をあまりやらなくなったし、その重要性がほとんど理解されてないことではないかと思う。

「基本準備動作」とは、技をつかうにあたって必要な動きや、そのための体つくり、息遣い、呼吸力の養成などの練習である。例えば、体の進退、体の変化、呼吸転換法、手首関節柔軟法、呼吸力養成法等がある。(「合気道技法」)

当今、この「基本準備動作」の代わりに、いわゆる準備体操をやっている。「基本準備動作」の手首関節柔軟法もやるが、準備体操のつもりでやってしまっているようであり、呼吸転換法や呼吸力養成法(呼吸法)は技としてやってしまっているようである。

開祖が監修され、吉祥丸先代道主が著した『合気道技法』には、「基本準備動作」は次のように説明されている。

合気道を深めたいと思えば、この「基本準備動作」を見直し、身につけていかなければならないと考える。

『合気道技法』に書かれているように、基本準備動作の内の「構え」「間合」「手刀」「気の流れ」「入り身」「捌き」「力の出し方」「受身」「座法」の9項目の内の1項目でも欠けると、その上に築かれるべき合気道の技法が無意味なものになるという。実際、これらの基本準備動作ができる程度にしか技をつかえない、といってもよいだろう。

その典型的な例が、諸手取り呼吸法である。これは、かつて有川定輝師範がよく言われていたことであるが、「技は諸手取り呼吸法ができる程度にしかできない」のである。そのために、師範は、技の稽古に入る前に、必ず呼吸法をじっくりとされていたのだと思う。

現代はますます忙しくなってきているようで、体操をちょこちょことやって、技の稽古に入ってしまう。それ故、基本準備動作の修練は、稽古のはじまる前に自分でやるか、朝、自宅で自主稽古するとか、自分でやるしかないだろう。

参考文献 『合気道技法』植芝盛平監修 植芝吉祥丸著 (光和堂)