【第289回】 手を腰にする

腰は体の要(かなめ)であり、人にとって重要な部位であるが、武道ではさらに重要である。腰が重要でないという武道家は、いないだろう。

だが、腰とは何か、どこにあるのか、というと明確な定義がなく、ただ腰椎周囲の背部である、と漠然といわれるだけである。従って、この重要な腰がどこにあって、どのような働きをするのかは、自ら感じて、自覚し、そして鍛えていくしかないことになるだろう。 腰の位置は外から見れば、例えば、道着の上から締める帯が背面にあたるところ、同じように相撲取りの帯が背面にあたる部位、ズボンのベルトが背面に当たる辺り等といえよう。

腰が体の要で重要であるのは、要するに腰は体の力の源であり、また、末端の手足からの力を収めるところでもあるから、といえるのではないだろうか。合気道で技は手でかけるが、手先の末端の力では大した力が出ないので、体の中心である力の源から出る力をつかわなければならない。

そしてまた、相対稽古の相手からの強力な力を末端の手先では受けきれないので、腰で受けなければならない。また、バーベルを挙げたり、重い石や荷物などを持ち上げる場合も、手の力では無理な場合は、腰で受けてつかわなければならないことになる。

しかしながら、腰がどんなに力が出せようが、収められようが、腰でものを持ったり、技を掛けたりすることはできない。それができるのは手である。ここにジレンマがある。手は使ってはいけないが、つかわなければならないし、腰は使わなければならないが、使えないのである。これも合気道の"公案"のひとつであろう。

このジレンマを解決する方法は、手を腰にすることである。つまり、手と腰を繋ぐことである。手に腰の力、腰に手の力が伝わるようにするのである。そうすれば、相手が手を取ったと思っても、実はこちらの腰を持つことになり、相手の予想に反する異質の力になるわけである。技をかける場合も、一見すると相手と接している手でかけているようではあるが、実際には腰でかけているので、相手の想像を越えた異質の力が出ることになろう。

では、手を腰にするためにはどうすればいいのかということになる。それは、次回で書いてみることにしよう。