【第285回】 首と顎(あご)

前回は、人間は有機体であり、体の各部位は、体全体に有機的につながっているということを書いた。そこで、数回にわたって「頭」「首」「背中」を、武道の体と合気道の技との有機的関係で書くことにした。前回は「頭」について書いたが、今回は首に顎を加えて、「首と顎」という題で書いて見ようと思う。つまり、首と顎と体全体の有機的な繋がりと、合気道の技つかいの関係についてということになる。

5キログラムほどの重い頭を支えるのが首である。正しく支えないと首に負担がかかり、それが高じれば肩コリなどを引き起こす。そうならないように頭と首の位置を調整しなければならない。いい姿勢になるために、「頭が前と上にあれば体重は後ろにかかって、脊椎が長くなり、結果としてバランスした直立的な姿勢になる。」と、心身の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習する方法を提唱しているアレクサンダー・テクニークは言っている。

合気道の受けなどで強く投げられたときなどの衝撃は大きく、無意識のうちに頭を打たないように首の筋肉に力をいれるが、衝撃が大きければ、翌日、首に筋肉痛が残るほど、衝撃を伴ったときの頭は重いものである。

この筋肉痛になる筋肉は、胸鎖乳突筋といい、鎖骨と顎と側頭骨(乳様突起)を繋げており、首を保護する働きがある。この筋肉を鍛えて首を鍛えても、運動能力の向上はあまり期待できないようだが、頭にパンチを浴びるボクシングとか空手、首を抱え込む体勢の多いレスリング、また、首に衝撃があるラグビー、アメフトなどでは、首の事故を防ぐために鍛えていた方がよいとされる筋肉である。

当然、武道である合気道でも鍛えなければならない。重い頭を支えるだけでなく、怪我を防止するため、そして、首をリラックスしてつかえるようにしなければならない。

首が緊張したりして硬くなると、胸鎖乳突筋も緊張してしまい、胸鎖関節を固定してしまう。腕が胸鎖関節ではなく、肩を支点に動いてしまい、肩に力が入った状態になるからである。

首の位置決め調整は、主に顎である。顎を強く引いてしまうと、首が緊張し、腕がよく動かない等、体の動きに悪い影響がでる。また、顎を上げているのも、力が抜けて、間が抜けるだろう。

それでは首が緊張せず、また、間が抜けないようにするには、顎をどうすればよいかということになる。

答えは、顎と腰腹を結ぶことである。腰腹と手足が結ばなければ、よい技ができないのとおなじように、体のすべての部位は、有機体として体の中心と結ばれなければ、よい仕事はできないはずである。顎と腰腹が常にむすびあっていて、そして連動して動くように、修練しなければならない。顎と腰腹、つまり首と腰腹が繋がれば、腰腹の力、引いては下肢の力が、首で捉えられるようになろう。受身の際に顎を引けというのは、顎を腹に結ぶということになる。

「首の筋肉には他の筋肉よりも遥かに多い神経受容体があり、姿勢や動きに関係する筋肉の調整に影響をまず与えるのが、首の筋肉の状態である。また、首の筋肉は脳へも非常に強い感覚的情報を送っている」と言われる。(「図解 アレクサンダー・テクニーク」)

頭と首を腰腹に繋げるのは、脊柱と筋肉であるが、次回は「脊柱」について書いて見ることにする。

参考文献
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』 (大修館書店)
写真  goo Wikipedia 
『図解 アレクサンダー・テクニーク』(産調出版)