【第282回】 腰と腹

腰と腹は、肉体と精神の中心として重視されるが、武道においても力の源として重視される。

腹(はら)は、人間や動物の体における胴の下半部のことである。腰(こし)とは、大まかな意味では脊柱の下部から骨盤までを指すが、解剖学的には腰椎周囲の背部を指す。腹筋群、背筋群などが重なり合うことで強固な筋肉機構を作り上げており、体幹の屈曲・伸展・回旋等に非常に重要な役割を持つ。

技の練磨で精進していく合気道でも、技を掛けるにあたっては力がいる。力には、体からの力である"体力と"、そして気持(心)と息からの"気力"があると思う。((注):適当な言葉が見つけられないので暫定的に"気力"とした。)この体力と気力を合わせたものを、呼吸力というのかも知れない。

力の源は、体力は腰、そして気力は腹だろう。腰だけの体力の力だけでは大した力は出ないし、また、腹だけの気力の力だけでも大きな力にならない。この二つの力が一緒になって、はじめて大きな力が出ることになると考える。

武道では、腹に力を入れるとか、丹田に気を沈める等というが、合気道でも腹の役割は大きい。

手先に大きな力を出すための力(呼吸力)の源の源は"腹"だろう。それも下腹の呼吸である。まず、下腹に息を入れる(吐く)ことによって体全体に力をみなぎらせ、息を吸う(引く)と下腹が膨らみ力でみなぎる。そして下腹に息を入れることによってその力"気力"が腰に伝わる。この時は、腹と腰が気力で満たされているはずである。

この腰に伝わった気力が腰の力を呼び集め、強大な力にし、体幹を屈曲・伸展・回旋させて、背筋群、肩甲骨、腕、手先へとその力を流すことになる。

腹からの気力は縦の力、腰の力は横の力ということができよう。つまり、腹と腰で十字に力が働くということである。そして縦の気力と横の体力が縦横十字に絡みながら、螺旋で上下に流れる。これが呼吸力になると考える。

宇宙の条理として、まずは縦(腹)からはじめ横(腰)をつかわなければならない。横の腰や体幹を先に動かすのではなく、まずは縦の下腹からつかわなければならない。そして、腹腰を陰陽の対照と統一で、螺旋の呼吸力が出るように遣っていかなければならないはずである。