【第255回】 ハムストリング

技の練磨をして精進していく合気道の技は手で掛けるが、そのつもりで手を振り回しても技は掛からない。技は手で掛けるというより、足で掛けると言った方がよいだろう。なぜなら、手を遣うとか手を振り回すというのは、体の末端を遣うということになるので、大きな力は遣い難いことになる。足を遣うということは、自分の体重が遣えることになり、強大な力で技を掛けることができるからである。

足に上手く働いてもらうためには、足首、膝、股関節のカスがとれて、柔軟でなければならない。また、ある程度の筋肉がついていなければならないし、その筋肉を上手く遣えなければならない。

体は表(背中側)を遣わなければならないから、足の表の主な筋肉は、大殿筋やお尻の下のハムストリング、ふくらはぎ(下腿三頭筋)、アキレス腱などであろう。その内、技を遣うにあたっては、上腿の裏側にあるハムストリングが特に重要に思える。

ハムストリングは、外側から大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋という3つの筋肉で構成されていて、これらの筋は、股関節と膝関節の内旋外旋を微妙に調節しながら屈曲伸展を行うといわれる。

つまり、このハムストリングの筋力が弱かったり固まったりすると、体重をうまく支えられないし、股関節と膝が動きにくいことになる。極端な場合は、腰を痛めたり膝を痛めたりすることになる。最近、合気道の稽古人に膝や腰を痛めている人をよく見かけるが、このハムストリングの筋肉のつき方が少ないからのように思える。ハムストリングスの筋力をもっとつけて、柔軟にしなければならないだろう。

また、ハムストリングは「ランナー筋」とも言われるように、体を迅速に進めるのに重要な働きをするという。体当たりや素早い入り身や転換のためには、強靱なハムストリングが必要になるわけだから、合気道でも重要な筋肉のはずである。

ハムストリングスを柔軟にするのは、ストレッチ運動で出来るだろう。呼吸に合わせて伸ばせばいい。合気道の稽古で、ハムストリングの筋力アップをするに最も効果的なものは受身であろう。前受身、後受身、とび受身を沢山とれば、自然と筋肉はついてくるはずである。ハムストリングがか細く、筋力が乏しいのは、受身が足りないとも言えよう。

筋力アップするために、稽古が終った後の自主稽古で、受身を30回、50回など一人で取ったり、投げてもらって鍛えるのがいいだろう。

もちろん、ハムストリングを鍛える最上の方法は、技の練磨の中でやることである。合気道の技は、体が鍛えられるようにできているといわれるのだから、ハムストリングも、技の稽古を通して鍛錬されなければならない。稽古をやっても太ももが太くならず、ハムストリングの筋力が少しも増えないとしたら、稽古のやり方を変える必要があることになるだろう。

技を掛ける際、ハムストリングを上手く遣わないと技はうまく掛からないものである。とりわけ体の力を上下に遣う場合には、ハムストリング筋を伸ばしたり縮めたりして遣わなければならないが、ハムストリングの筋力が弱いとそれができない。伸ばしたままでは体を沈めることができないので、平面的な動きしかできず、螺旋の動きができないことになる。当然、技は効かないことになるだろう。

ハムストリング筋が弱いのに、体を沈めようとすると、体重をハムストリング筋が支えきれず、ハムストリングと反対側の大腿四頭筋や膝に掛けることになってしまい、体の裏を遣うことになる。だから、力は出ないし、膝を痛めてしまうことにもなる。

ハムストリングの筋力を鍛える稽古を、呼吸法でじっくりやるといい。体を十分落としてハムストリングを鍛えるのだが、体を落とすときは、ハムストリング筋を収縮するので吸気を遣い、立ち上がる際はハムストリングを伸展させるので呼気を遣う。慣れてくれば、この呼気と吸気を換えても出来るが、体を呼吸に合わせて深く沈めて遣うように稽古していけば、ハムストリング筋力は相当鍛えられるはずである。

ハムストリングを鍛えるもう一つの稽古法は、四股踏みである。毎日、50回ぐらい踏んでいれば、一年で相当鍛えられ、太ももが太く、しっかりしてくるはずだ。

また、日頃歩く時に、ハムストリングを意識して歩くことである。足底が着地した時、その衝撃をハムストリングで感じるようにするのである。ハムストリングでそれを感じれば、即、その衝撃が腹にくる。歩くことで腹ができるということが実感できるはずである。もっと実感したければ、山歩きなどをすればいい。

いずれにしてもハムストリングをしっかり鍛えないと、足で技は掛からないだろう。最悪の場合、膝や腰(股関節)を痛めることになるかもしれないので、要注意である。