【第215回】 腹をつくる

武道を修練する目標の一つに、「腹をつくる」がある。武道でなくとも腹をつくり、腹のできた人をつくることはできるが、それを目標にしている武道を通した方がやりやすいだろう。

腹には二つのものがある。一つは肉体的な腹であり、もう一つは精神的な腹である。ここでは、肉体的な腹のつくり方について考えてみたいと思う。

腹をつくるということは、腹に筋肉をつけることだけではない。腹筋運動で腹を鍛えている人を見かけるが、これが本当の腹をつくることにはならないだろう。

腹筋運動は、腹に筋肉をつくるという結果を目標にしていることになり、大事なプロセスがないことになる。結果はプロセスの結果であるべきで、性急に結果だけを目指すのはよくないだろう。腹筋で腹に筋肉をつけるのではなく、プロセスの結果として筋肉がつくようにしなければならないはずである。

さらにいうと、腹筋運動は腹に筋肉をつけるための部分的運動なので、体の他の部分とのつながりや体全体との一貫性がない。もちろん、腹筋が弱くて体がうまく動かないため、他の部位のレベルにまで筋力をつけようというのなら、その腹筋運動に意味があろう。

合気道は、基本的には技や型を通して腹を練り、体をつくるものである。腹筋運動もいいが、技の稽古を通して腹を練るようにしなければならない。もし、技の練磨をして腹がつくれなければ、技の遣い方や体の遣い方が間違っていることになろう。

かつて有川定輝師範がよく注意されていたことに、「脇はかならず締める」というのがあった。脇を締めないと技が効かないだけでなく、腹が締まらないというのである。つまり、脇を締めれば、腹が締まり、腹がつくられ、そして合気の体ができることになるといわれたのである。受け身を取る場合でもおなじであるが、技を掛けるときは脇が開かないように、脇を締めて遣わなければならない。

すべての技でそうしなければならないが、脇を意識して締める稽古は、諸手取り呼吸法や後両手取りが分かりやすいようだ。これらは脇が甘くなれば、その技は上手くできないはずである。脇の遣い方が重要なポイントになるはずである。

脇を締めるためには、手先ではなく脇から遣っていかなければならない。手先からさきに動かせば、脇は開いてしまうはずである。

腹をつくるために、脇をしめることの他にもう一つあると、有川師範から教わっている。それは、「最後に切り下ろすときは、小指に力をいれる」である。そうすると、腹に力が集まり、腹ができるのである。翁先生の銅像の手の形である。