【第210回】 手の指

合気道は技の練磨を通して精進していくわけだが、その中で一教が特に大事である。入門しても、技の稽古は一教から始まるし、一〜五教の基本技の最初が一教であり、そして二,三、四教と繋がっていくわけだから、その基になる技ということになる。つまり、一教が上手く出来ないと、二,三、四教や他の技もうまくできないということになる。実際に稽古を見ていると、このことは正しいと言えそうだ。

それでは、一教がうまくできないと、なぜ他も技もうまく出来ないのかということを、考えてみなければならないだろう。一教がうまくできたり、できなかったりするには、多種多様な原因があるだろうが、そのひとつに「手の指の締まり」があると考える。

一教は「腕抑え」とも言われたように、相手の受けの手をしっかり抑えなければならない。抑えた受けの相手に腕を返されたり、起き上がられてしまったのでは、抑えたことにならず、腕抑えにはならない。

しっかり抑えるためには、いろいろな部位の体遣いや息遣いなど、たくさんのことを理に適うように機能させなければならない。例えば、手先と腰腹を結んで連動して遣うとか、相手が掴んでいる接点からではなく腰から先に動かすとか、息遣いとか、いろいろあるが、重要なことの一つに、この「手の指の締め」がある。

手の指の締まり、が弱いと技は効かない。とりわけ、一教腕抑えは効きにくい。だから、一教で手の指が締まるように稽古をしなさい、ということになるだろう。指の締まりがついてくると、一教がうまくできるようになるだけでなく、二,三、四教もうまくできるようになるようである。

手の指が十分締まるようになれば、二教も三教も相手の受けの手をしっかり掴むことができるようになり、一教よりも容易に相手を崩したり抑えてしまうことが出来るようになるはずだ。

手が締まらないとはどういうことかと考えてみると、まず、手の指自体に十分な力がないこと、次に、手先の指に腰腹からの力が集まらないこと、そして三つ目に、掴んでいる自分の手と相手の手の間に隙間が出来てしまうことであろう。

それでは、手の指が締まるようになるためには、どうしたらよいかということになる。それには、上記の三つの問題を解決するように稽古をしていけばよい。

ます、指が強くなるように技の稽古で、意識して指を鍛えていくことである。十分に伸ばしたり縮める鍛錬する。鍛錬しないと、手はなかなか真っ直ぐにならないし、指の関節も十分に曲がらない(屈曲しない)ものである。

一教腕抑えでは、相手の腕を指先に力を集めて締めつけなければならない。女性のような力のない相手には手加減が必要だが、頑丈そうな相手とか、よく気心の知れている相手とやる場合は、指の締めの鍛錬を意識してしっかりやらなければならない。相手もそれで鍛錬になるし、その方が気持ちがよいものだ。一教で抑えられて腕を伸ばされるほど、気持ちよいものはないものである。まずは、一教で相手の腕を自分の指でしっかり抑える稽古をしていくことである。

指先の力に腹腰の力が加われば、もっと強い力になる。相手を崩したり、吸収できるのは、鍛えられた指に腰腹からの力が集中した力を遣ったものであるといえよう。しかし、これも容易ではない。そのためには、曲がらない腕が出来ていなければならないし、肩が貫けていなければならない。また理に合った息遣いで体と手を遣わなければならないからである。それが出来て、指先に腹腰の力が伝われば相、当強い力が出るはずである。

しかしながら、これでもうまく抑えることが出来ない場合もある。それは、相手の手との接点で隙間が出来てしまうからである。隙間があると、相手と密着できず、相手を逃がしてしまうことになる。密着できない原因の一つが、指の関節の硬さにあると思う。

手を締めるために、手を握るに大事な指の関節は、指先から3つある。この3つの指関節は、上下の隣同士鋭角になるまで屈曲しなければならないと教わった。これが鈍角だと隙間ができて、指が締まらないのである。合気道では相手の腕を抑えられないし、空手の突きでは威力が半減するだけでなく、自分の手を痛めてしまうということである。

指の関節同士は、少しでも鋭角になるように鍛錬すべきであろう。特に、一番目の関節、それも小指のそれは鋭角になりにくい。だから、特に小指には力が入らず締まりが弱くなるようである。毎日、関節同士が鋭角になるように曲げたり伸ばしたりするのがいいだろう。

指の関節同士を鋭角にするのに、そこの関節部を押したり伸ばしたりするのもよいが、もうひとつ、その指に繋がっている筋肉を伸ばしてやることも必要だ。例えば、鋭角に屈曲しにくい小指は、小指の伸展を司る小指伸筋(写真)、小指の屈曲をする浅指屈筋、深指屈筋(写真)と繋がっていて、その筋肉が硬くなっているものである。ここが硬くなっているから小指が鋭角に屈曲しないのであろう。だから、ここをほぐしてやればいいはずである。 

指の関節の屈曲の度合いが指の力と大きく関係しているようである。指先からより大きな力が出るように、指の関節同士を少しでも鋭角になるよう鍛錬していくほかないだろう。