【第21回】 手は上げ下げの単純動作

開祖は、「頭の働きは両手にあり、腰の働きは両脚にあり」といわれていた。頭が悪いせいでそうなのか判らないが、稽古での手の使い方はなかなかに難しい。ときどき自分の手ではないかのように、思ったように動かないものだ。

しかし、考えてみれば、手足を含め身体は自分のものであって自分のものではないわけであるので、はじめから思うようには動いてくれない。何度も繰り返すことによって、自分の思うように動くようになるのである。一般の日常での手足の動作は、その繰り返しで出来るようになったのである。

稽古でも、一つの技は万単位で繰り返さなければスムーズに出来ないといわれる。しかし、繰り返して稽古をすれば上達するかというと、そうとはかぎらない。間違ってやるのでは、やればやるほど駄目になるからである。従って、上達の条件は、理に適った稽古を繰り返して稽古することにある。手足の動きも同じである。

相手を倒そうとか、制しようとか、技をかけようとすれば、その頭の働きは手に伝わるので手が動くことになる。手は体の末端にあって枝のようなものだし、腰や脚(後脚)と違って背骨に関節で繋がっていないので、脚や胴体と比べると弱い部である。人は、長年にわたって手を便利に使ってきたことで、無意識の内に手は強いものと思い、手を信頼しすぎて、やりやすいように手を使って技をかけがちである。

弱い手を少しでも強く使うには、無駄のない動き、理に適った使い方をしていかなければならない。それにはいろいろな使い方があるが、手の動きに関して、故有川師範は、手はただ真っすぐ上げて真下に落とすだけと言われていた。この手の動きを意識してやると、体の体重と自然(地球)のエネルギーが使えて、重く、粘る手になるようだ。

故有川師範の1999年9月29日の稽古のテーマは、「手を上げて下げる単純動作」であった。当日の稽古プログラムと先生のコメント、ポイントを紹介する。

○ 準備運動: 正面打ち、横面打ち、八方切り

刃筋が通るように打つ

○ 両手取り呼吸法

足の運び方。体の回転で体を練る。
体の返しをはやくする。手は上に上げて落とし、横に振らない。

〇 正面打ち一教表と裏

居つかず、受けないこと。中心を突いて、両手取りの足さばきで相手の力をそらす。
裏は完全に入り身で入って下に下ろすだけ。
「手は上げて下げる単純動作!」

〇 正面打ち入り身投げ

完全に相手の死角に入る。入れば後ろ襟をつかんで落とすだけでいい。転換しないで前に進んで倒すときは、手を前に突き出すようにする。

〇 横面打ち四方投げ

間合いは"ヒジ"の遠さ、相当深く入れ!
裏は、前の手で相手の中心(通常は喉)を突く気持ちで真っすぐ進み、横に崩す。中心をついていくと軌跡ができる。 両手取り呼吸法の足運び!

相手の手と接している手は自分の中心上を上下する。

〇 横面打ち小手返し

小手はひねらず返す!

押さえている手を真下に切り下ろす。(横に返すのもある)

〇 横面打ち、小手返しから呼吸投げ

動きを止めず、即、対手を倒す。手の持ちかえが微妙。


いいもの、正しいものは単純で無駄がない。無駄がないものは美しく、強い。手の動きも無駄を少しでもなくなるように稽古をしていきたいものである。