【第205回】 腕力でない力をつける

合気道は武道であるから、力はあった方がいいし、力をつけていかなければならない。とりわけ初心者の段階では、力が付くようにしっかりした稽古をしなければならない。しっかり持たせ、打たせ、それをしっかり決めていくのである。

初心者が技を掛けて、それで相手を制することができたとしたら、それは技ではなく力でしかないだろう。技は数年では覚えられるわけがないし、それ以前に、まず「技」とは何かが分からず、気にも留めないだろうからだ。初心者の内は手順を覚え、ただ技の形をなぞっているだけなのである。初心者は、力にしか頼れないのだから、力をつけなければならないし、それしかないだろう。

合気道には力をつける稽古方法がある。その典型的なものが、呼吸法である。これは呼吸力養成法といって、合気道で大事な呼吸力を養成する稽古法である。 まず「片手取り呼吸法」であるが、相手にしっかり持たせた手を重(おも)りと思って遣って手を鍛え、力をつけていくのである。相手が強ければ手は上がらないだろうし、苦労するだろう。しかし、だんだんと力がついてきて少しづつ出来るようになってくるものだ。

片手でできるようになれば、今度は「諸手取り呼吸法」でやってみればよい。こちらは一本の手でも、相手は諸手の二本で抑えてくるわけである。二本の手を一本で制するのは容易ではないことは、理屈で考えてもすぐ分かる。

しかし、合気道の稽古では、通常ではできっこないこの理不尽な稽古をするのである。これが鍛錬であり、意味がある。

まずは一本で二本に対抗するのだから、一生懸命やっていけば力はつく。腕は太く、そして丸味を帯びてくる。実際に測るとどうかは分からないが、丸っこく太く見えるようになる。しかし、そうなるには、手首の毛が擦り切れるぐらい稽古しなければならない。

腕が太くなってくると、諸手で掴んでくる相手を多少さばけるようになってくるものだ。それは腕の力が強くなったこともあるが、手先と腹、そして腰が徐々に繋がってくるからである。つまり、相手の二本の腕より強い腰腹、つまり体幹を遣えるようになったわけである。どんなに腕が太くても、胴体より太くはない。胴体からの方が、腕よりも強い力が出るのである。これは、自然の摂理であり、宇宙の法則であろう。

腰(体幹)を遣うようになると、腕力を以前のように遣う必要がなくなるし、手も自由に遣えるようになり、そして楽に動けるようになるので、相手を制するのも容易になる。これで腕力でない力をつけ、遣えるようになる。

腕力とは腕先の力であり、体の中心の腰からの力に比べれば小さく弱いだけでなく、相手をくっつける引力(呼吸力)という力もない。従って、腕力でやれば、相手より強い力を遣うようにするしかないことになる。

上級者の稽古は、腕力をつけ、しかもその腕力を遣わない稽古でもあろう。腕力を遣っているかどうかは、自分では中々わからないだろうが、それが分かるひとつの方法は、より加重を掛ける稽古をすることである。

例えば、前述の「片手取り呼吸法」を「諸手取り呼吸法」でやってみるのである。腕力でやれば出来ないが、体幹を遣えばやりやすくなる。体幹からの力が上手く遣えれば、2、3人に抑えさせても出来る可能性ができる。

また「四方投げ」「一教」「二教」「入り身投げ」を諸手で持たせてやってみる。腕力では出来ないだろう。やはり、腕力でない力を遣わなければならないことになる。

このように、加重をかけても出来れば、他の取りや掛けに対する技も、腕力でない力でできることになるだろう。