【第202回】 背筋(はいきん)

開祖の姿勢は、どんなときも美しかった。立たれても、座っても、技を掛けられても。神様に拝礼されるとき等の姿勢は、一分の隙もないものであった。開祖が姿勢を崩されたのを見たこともないし、ビデオや写真で見ることもない。

姿勢がよい、美しいといういうことを一言で言えば、「背筋がピンとのびて、下半身から首筋まで一本の軸である」ということでもあろう。

姿勢が美しいと常々感心するのは、剣道家、バレーダンサー、フィギュアスケーターなどである。今、思い浮かぶものだけを挙げただけなので、まだまだ他にもあるだろうが、大事なことは、ここに挙げたスポーツにおいて背筋がピンとのびていることが重要であるようだということである。背中の丸まった剣道家やバレーダンサー、フィギュアスケーターなどは、試合に勝つこともないだろうし、想像もしたくない。

4回転ジャンプ3回を成功させた唯一の現役選手であり、「4回転サイボーグ」と言われるフランスのフィギアースケート選手のブライアン・ジュベールは、4回転のジャンプを0.7秒でやる。1回転を平均0.17秒という超スピードで回転することになる。この為には跳びあがるための強力な脚力も必要だが、もっと大事なのが背筋であるという。特に、背骨に沿った筋肉を強靱にすることであるという。この背筋がしっかりしていると体が一本の真っ直ぐな細い軸になり、早く安定した回転ができるのだという。(NHKスペシャル「ミラクルボディ」)

合気道で技を掛ける場合も、背筋は重要である。背筋は体幹に下肢からの力を集め、腕から手先にその力を伝え、また上半身の動作を俊敏にし、体の回転スピードをあげる等の働きをするからである。そのため背筋を鍛え、真っ直ぐに保つようにしなければならない。

合気道の技には体を1回転するものは少なく、原則的に撞木で進むし、転換する場合でも、ほぼ30度〜180度の回転ということになろう。しかし、この回転することによって相手を投げ飛ばしたり、極めたりしなければならないので、体の遣い方はフィギュアスケートの2倍以上に注意しなければならないことになると言えるかも知れない。

合気道の稽古で、背筋、特に脊柱起立筋を鍛えるには、まず上半身と下半身が真っ直ぐな一本の軸になるように体を遣って稽古することである。ガニ股歩きやどたどた歩きではない、一軸歩法である。この体遣いにより、足からの力が背筋に来て背筋が鍛えられることになるはずである。足が地を踏む力を背筋で感じるのである。オーバーに言えば、背筋で歩く感覚と言えよう。

また一本の軸で動くと軸はどんどん細くなるはずである。細くなるというのはいろいろある背筋の内、体の中心にある背骨に近い背筋に力が集中して、背骨に沿った筋肉、例えば、脊柱起立筋が鍛えられることになるということである。

この他、稽古を通して背筋を鍛えるため重要なことは、@上半身(体幹)を捻じらず、ひねらず、曲げず、折らずに面として遣い、A手腕だけを遣わないで、肩甲骨を遣い、B手は肩先からでなく肩を貫いて遣い、C息に合わせて背筋を遣って技を掛けることである。 

また、背筋を更に強靱にしたければ、背筋に負荷をかけるために「諸手取り呼吸法」や木刀や鍛錬棒の素振りを、背筋を意識してやることであろう。いずれにしても、背筋を鍛えたいのなら、そこに意識と息を入れて稽古することである。