【第200回】 機能する手

合気道の技は基本的に手で掛けるから、手は重要であるが、初心者は手をあまり重要と考えてないようだ。その証拠に、手の位置、軌跡、直線的動き、手先だけの動き等を見ても、武道の手としては機能しないような遣い方をしているものだ。

手の働きは頭にあるといわれるが、頭が整理整頓されていないと、それが手に表れるのだろう。武道は頭で考えてから行動を起こしたのでは遅いわけだが、それは理想であり目標であって、初めは誰でも頭を遣いながら稽古をしなければならないと思う。

合気道は勝ち負けの勝負をしているわけではないが、相手が朝青竜のように力があったり命がけで頑張ったりするのは別として、相対稽古で技が効かなければ、技の掛けかたに間違いがあるか、未熟ということである。

その典型的なものが「手」にある。手を無暗に遣っているのでは、武道としての理合がないのである。理に合った遣い方をしなければ、力は出ないし、迅速に動けず、相手と結ぶこともできないはずである。

手の遣い方でよく見掛けて、気になるのは次のようなことである。

  1. 手を体の中心から外して遣っていることである。これでは手先に力が集まらず、相手に引っ張られれば崩れてしまう。
    手は体の中心に置き、体の中心で遣わなければならない。両手の場合は、両手の中間が中心となる。
  2. 手と腰腹が繋がっておらず、手だけを独立させて動かしている。手だけの力では大きい力は出ないし、無理して力を入れると腕を痛めることにもなる。手先と腰腹は常に結んでいなければならない。
  3. 末端の手から動かしている。末端の手は相手との接点であるので動かすべきではないし、本来、動かないはずである。対極の腰や足から動かすべきである。
  4. 手を直線的に遣っている。これでは相手に押さえ込まれて動けなくなるか、相手との結びを切ってしまうことになる。手は反転させながら円く遣わなければならない。
  5. 手を肩までの短い手で遣っている。肩甲骨を含めた、胸鎖関節までの長い手を遣った方が、大きい力、引力の強い力がでるし、肩を痛めない。
  6. 手と足をばらばらに遣っている。手は足と同じ側にあり、所謂「ナンバ」で遣うのが原則である。さもないと力が出ないばかりでなく、腰を痛める。
  7. 地の足の側の手を上げたり、振り回して遣っている。天の足(天盤)側の手で、活殺を握っている手を遣わなければならない。典型的な例は「二教裏」。地の足側の手で決めようとしているから効かないのである。
  8. 吸気のところを呼気で手を遣ったり、息遣いが場当たり的で、手の動きに呼吸が合っていない。相手をくっつけたり崩したりするように手を遣う場合は、吸気を遣わなければならない。
  9. 手の動きが止まってしまう。一つの技は一呼吸で、一本の軌跡で納めなければならない。意識と息遣いに問題があるわけだから、美しい軌跡になるよう、息に合わせて動き、技を掛けるようにしなければならない。
  10. 自分の手を相手に対して平行に遣っている。相手に対して十字に遣わなければ技は効かない。合気道は十字道と言われているのである。
まだまだあるだろうが10項目だけ挙げた。これだけでも、手をきちっと理に合って遣えれば、技は随分効くはずである。絶対に効くという保証はできないが、少なくともこの項目の一つでも欠ければ上手くいかないことは保証できる。

上手くいくというのは、自分も相手も納得し、相手が喜んで倒れていることである。手の遣い方をもう一度見直してみたらどうだろうか。開祖や名人・達人の手の遣い方をよく見て、研究してみるのもよいだろう。