【第187回】 関節を一本に遣う

技の練磨をしながら精進していく合気道の稽古では、技を手で掛けるので、手は大事である。しかし、手を上手に遣うのは容易ではない。

手は体の中で最も自由に動かせるし、また自由に遣ってきたはずである。そのため、合気道の稽古でも、それまでの習慣通りに遣ってしまうことになる。日常生活の延長上で、無意識のうちに遣ってしまうと、武道としての力が出てこないのである。それに、稽古では手に大きな負担が掛かるので、日常生活での手の遣い方をすれば、手や体を壊すことにもなる。

合気道の技は、腰腹からの力を手に集めて掛けるわけだから、腰腹からの力をいかに効率よく手先に伝えるかということと、手先を如何に効率よく使うかが重要になるだろう。手をただ無暗に振り回したのでは、体幹からの力は使えないし、手も十分に働いてくれない。

人間の体は、骨と筋肉で動くように出来ている。相手をつかんだり、抑えたり、投げ飛ばすのは、これらの骨と筋肉ということになる。その骨と筋肉及びその組み合わせがよく出来ていることには驚かされる。まさに芸術であり神秘である。やはり「宇宙」がつくったというほかはないだろう。

技の練磨において、腰腹からの力を最大限に遣うためには、この「宇宙の法則」に則ってできた手を「宇宙の法則」に則って遣わなければならない筈である。
まずはその法則を見つけなければならない。

手は、7つの関節から出来ていると言える。指に3つ、それに手頸、肘、肩、胸鎖関節である。手頸から上の関節から関節は、各々十字(直角)に動きやすいように出来ている。日常生活では、手は動きやすい方に動かして遣うことになる。日常ではそれほど大きな力を遣うこともないので、体や関節の部分々々を遣うだけでよい。しかし、武道では出来るだけ大きな力を手先に集めなければならないから、日常の体の使い方では力が集まらない。例えば、手頸から先を手の平と甲の方向に動かしたり、小手を上下に動かしても、二の腕を左右の横に動かしても大した力は出ないし、相手の力に耐えるのは難しいものである。

腰腹からの力を手先に繋げるためには、腰腹から手先まで一本の骨のようにしっかりと繋がっていなければならない。しかし腰から手先までが一本の骨なら問題ないわけだが、幾つかの関節があるわけである。その一か所でも折れていたり、力が抜けていれば、手先まで力は伝わって来ない。途中のすべての関節が繋がるようにしなければならないことになる。
開祖をはじめ名人達人たちは、それが出来たから驚異的な摩訶不思議な力を出せたと考える。

関節を一本に繋げるポイントは、やはり「宇宙の法則」である「十字」である。手首なら手の平と手の甲と直角の十字になるよう上下に、肘は脇をしめて横に、二の腕は肘を締めて下に、肩は脇を開いて横に遣うように、力を流せばよいということになる。関節を一本に繋ぐカギは十字ということになるだろう。

合気道の技は十字道とも言われるように、これが出来るようにできている。関節が、動きやすい方向だけでなく、十字の方向にも遣えるように、意識した稽古をしなければならないだろう。

また、剣や杖などの得物を遣った稽古もいい。得物を遣って動くと、「一本の骨」の感覚がつかみやすいし、「一本の骨」がより長くなるから、体術より分かりやすいからである。