【第178回】 深層筋

合気道は、技を練磨しながら上達していく道であるが、合気の技は宇宙の条理、宇宙の法則に則っているといわれるように、非常に繊細にできているから、習得は容易ではない。

合気の技を上手く遣うためには、いろいろなことに注意しなければならないが、その一つに体の遣い方がある。体にもいろいろあるが、中でも筋肉の遣い方がとりわけ重要であると思う。筋肉を上手く遣うことによって関節を機能させ、骨を動かし、体を上手く遣うことが出来るからである。

筋肉には、体の浅い所にあって、意識で動かすことができる浅層筋と、体の深い所にあって、意識では動かせないと言われる深層筋がある。浅層筋は瞬発力があり、大きな力を発揮することができるが、細かい正確な動作が出来にくく、持久力に欠ける。

深層筋はインナーマッスルともよばれるが、関節の近くの筋肉で、関節と関節をつないでいる靭帯を保護する役割がある。この筋肉は関節を自由に動かし、複雑な動きをさせており、姿勢の維持にもかかわる。持久力はあるが、反対に瞬発力に欠ける。

必要な動作のためには、関連するすべての筋肉が自分の役割に従って機能しなければならない。従って、浅層筋も深層筋も大事であるし、また浅層筋と深層筋が相互連携して機能するようにしなければならないだろう。

しかし、浅層筋は目に見えて、意識で遣うこともでき、また力を入れれば自然に力が入って遣う事が出来るなどで鍛えやすいが、それに対して深層筋は目に見えないし、意識で機能させるのが難しいので、鍛えるのが難しい。

筋肉トレーニングでも、一般に言われているように、筋肉をつけるために重要なことは「意識」と「呼吸」である。鍛えたい筋肉に意識を入れて、呼吸に合わせて力を流していくのである。筋肉は「意識」することを繰り返すことによって、それを無意識ではなく、顕在意識で認識出来るようになるといわれる。筋肉をほぐすマッサージ師に「どこどこの筋線の何番目」とほぐす指示をしたという、長野オリンピックでの金メダリストの清水選手は、まさにその好例であろう。

合気道の稽古は、浅層筋も深層筋も共に鍛えられるようにできている。初心者の内は力いっぱい、力みでやるので、浅層筋が鍛えられるから、稽古をやればやるほど筋肉がつき、体がしっかりしてくる。また、自然に深層筋も鍛えられている。無意識のうちに深層筋が鍛えられているのは、「受け身」と考えられる。力まずに力を抜いての受け身がよい。

投げられたり抑えられたりしても、力みを取り、受けを素直にとることによって、深層の筋肉が鍛えられると思う。また、一教、二教、三教での最後の抑え業も、力まずに相手に任せ、呼吸に合わせてやれば、深層筋が鍛えられるはずである。合気道での相対稽古で、力を抜いての受け身は、深層筋を鍛えるには最適だと考える。

繊細な合気の技を遣うには、深層筋を鍛えることが大事なようだ。受け身で深層筋を鍛えていくのもよいが、仕手(取り)でも鍛えていくべきだろう。まず、そのためには、技を掛けるとき力まないことである。力めば浅層筋に力が加わり、浅層筋を鍛えることにはなるが、深層筋にまでは及ばず、深層筋を鍛えることができなくなるからである。

次に、呼吸(いき)に合わせて技を遣うことである。呼気と吸気を間違わずに遣うことである。攻撃相手に接するまでと、最後の決め以外は、吸気でやることである。呼気でやると、浅層筋が働いてしまう。

また、意識を入れて、技と業を遣うことであろう。自分の筋肉、力の流れと、相手への力の流れと反応などを、感じることである。恐らくそれを感じやすいのは、浅層筋よりも深層筋のようだ。

つまり、浅層筋(アウターマッスル)を固く張らずに、軟らかく弾力性のある腕や体で、相手を粘らせ、深層筋(インナーマッスル)に力と意識を集中して、技と業をかけるようにすればいいのではないか。

浅層筋は若いうちは鍛えられるが、年を取ってくると衰えてしまうようだ。しかし、深層筋は年を取っても鍛えられるし、あまり衰えないようである。剣豪小説などに、年を取っても驚異的な力を出して豪の若者をやっつけるシーンがよく出てくるが、それが事実だとしたら、深層筋が活躍したものと考える。

ますます深層筋が鍛えられるような稽古をしていきたいものである。