【第177回】 腰

腰は「体の要(かなめ)」ということは分かっているはずなのに、合気道で体を遣う際に、この最も重要である腰を忘れたり、または軽視しがちである。

技は一見、手で掛けているように見えはするが、極端に言えば、腰で掛けるといえるし、また腰で掛けなければならないはずである。
腰と手が繋がり、腰の力が手先まで流れ、相手と結んだり、飛ばしたりするのである。手先が腰に繋がっていなければ腰の力が遣えず、手先だけが動き手捌きとなってしまい、力が出ないので技は遣えないことになる。

何はともあれ、手先と腰が結んでいなければ合気道の技の練磨は出来ない。技を掛けるときは、腰を動かすことによって手を動かすようにするので、技の練磨をすることによって腰は鍛えられるはずである。合気道の技の稽古をして、腰が鍛えられないとしたら、腰ではなく手を振り回してやっていることになる。

合気道の技はすべて腰を中心にして体を遣わなければならないが、特に腰を上手く遣わないと出来ない技がいくつかある。その典型的な身近な技のひとつに、「交さ取り二教」がある。初心者はこの技を掛けるとき、どうしても足が居ついたまま手だけを振り回してしまうので腰の力を遣えず、全然、技にならないのである。相手はしっかりこちらの手を掴んでいるし、ましてや諸手の場合、相手は二本の手で持っているのだから、こちらの片方の手では敵わないことは誰にでも分かるはずである。

しっかり持たれた手に技を掛けるのは、相手の手より強い力の腰を遣わなければならない。どんなに太い腕でも腰より太い腕など見たことがない。そして腰と手先をしっかり結び、手先を腰の対称にある腹の前の体の中心線上に置き、腰を内側に反転、次に外側に反転、そして腰と結んでいる手刀で相手が持っている手を切り下ろすようにし、必要なら最後に相手の手を掴むのである。右手を取らせた場合は、右、左、右と3回腰を反転することになる。但し、この一連の動き(業)は渦巻きの拍子とイメージで、ひと呼吸でやるので非常に強烈なので、よほど注意してやらないと相手の手首にダメージを与えたり、相手を驚愕させてしまうことになる。

技を掛けるには腰からの力を手に伝えるわけだが、腰の力を効率よく使うための腰の遣い方がある。
まず、体は表を遣い、力は体の表から出すという意識を持ち、そしてそれを習慣化することである。腰は体の表にある。体の裏側(胸・腹側)を遣っているうちは腰の力は遣えないことになる。
次に、腰は基本的に反転、反転で動くはずである。何故なら、足は原則として撞木で進むからである。つまり腰と対称にある腹と足先の向きは一緒であるから、腰も撞木で動かなければならないのである。ついでに言えば、腰と足も、手と腰同様にしっかり繋がっていなければならないので、腰が足を動かすことになる。つまり腰で足を運び手を動かすことになる。

腰を鍛えたい場合は、稽古を沢山やり、受け身を沢山とるのがいいだろう。また特別腰を鍛えたい場合は、「腰投げ」がいいだろうが、よほど注意してやらないと腰を痛めてしまうので、ある程度体が出来てきた上で、いい指導者についてやるのがいいだろう。
腰を鍛えるための安全確実な自主稽古は、何と言っても沢山歩くことである。出来れば山歩きがいい。町中なら坂を歩くのがいいだろう。坂もなければ階段を上り下りすればいい。エスカレーターやエレベーターを使わずに歩くのである。また通勤通学の際、一駅ぐらい歩けばいい。坂や階段もあるだろうし、譬えなくとも歩くだけでもいい。また「四股」や「股わり」もいい。但し、毎日継続してやることである。