【第151回】 からだが脳をつくる

合気の道を極めるには、まず技を極めていかなければならない。その為に同じ技を何度も々々繰り返し稽古することになる。技によっては数万回、数10万回やることになるだろうが、誰もがそれでも満足できずに、まだまだと思っているはずである。

確かに、繰り返して稽古すればするほど、技は上手くなるし、体もできるから、だれでも繰り返し稽古をするのだが、繰り返してやることには、何かもっと重要な意味があるようである。

今、日本のロボット学(ロボティクス)が再び注目されているという。大阪大学の浅田稔教授は、「人間とロボットの関わり方の本質に迫る学問領域―『認知発達ロボティクス』を確立し、人間社会に真に貢献しうる適応・発達ロボットの基本原理を世界に提供しよう」としている。

浅田教授は、ロボットをつくることは、人間のからだと脳を知ることであるともいう。教授のグループは、ロボットをより人間に近づけるために、ホンダの「アシモ」などのように各関節に電機モーターを使うかわりに、空気圧人工筋(空気圧アクチュエーター)をつかって、二足歩行ロボット(写真 左)や、赤ちゃんの頭脳が与えられたヒューマノイドロボット「CB2」(写真 右)を開発している。

これらのロボットから分かってきたこと、また人間のからだと脳の関係で分かってきたことは、次のようなことだった。「ロボットはコンピュータでプログラムしなくとも、からだを動かすことによって、歩行という運動を身につけることができる。」「からだが動かないと、脳に情報が入ってこないし、入ってきた情報に基づく行動をおこすことも出来ない。」「脳があるから、からだができるのではなく、からだがあることによって、脳ができあがっていくのである。つまり、からだが脳をつくり、からだが脳の成長をうながすことになる。」「ひとは体験を通じて脳に書き込んでいるが、からだを通じて脳を書き換えている。」

「からだが脳をつくる」ということは、からだを動かすことによって、脳の中にからだを動かす回路ができることであり、からだがさまざまな情報を取り入れ、脳を発達させていることである。

さらに、脳のある部分がからだのある部分と強くつながっているという。すなわち脳が、ここは脚の感覚、ここは手の感覚というように認識する、というのである。従って、手や足をつかえば、そこと繋がっている脳の部分が発達するから、手足をつかうことは脳をつくることになるわけである。

合気道の稽古で技を繰り返してやるということは、脳に回路をつくり、その回路を改善、改良、開発するということになるだろう。良質の回路になれば、いい技が遣えることになるわけである。頭で考えて悩むより、まずやって試してみるのがよいだろう。やっていれば回路ができ、からだの要所と脳が結びついていき、洗練されていくはずである。それにからだを遣っていれば、脳も元気でいられるはずだ。

体をつかって技を繰り返して稽古する意味は、ここにもあることになるだろう。

参考文献 『ロボット未来世紀』(NHK知るを楽しむ 08年12月/09年1月)