【第149回】 支点の親指

合気道で技を極めようとすれば、細心の注意をはらって稽古をしなければならない。ただ漫然と稽古をしても、技を極めることは出来ないし、技を身につけることも出来ない。やるべきことを見つけ、それを一つづつ自得していくほかはない。

合気道では、技をかけるときに中心と支点が大事であるが、中心をしっかり保持するとともに、支点は動かさないようにしなければならない。支点がなかったり、支点を動かしたりすれば技は効かない。正面打ち一教にしても、支点は相手の手首、肘下手首と、正面打ち入身投げでは、相手の手首、首、手首と支点が変わるが、この時に支点が順序よく変わらなかったり、支点がなかったり、支点を押したり引いたりして動かしては上手くいかない。

支点を動かすということは、腰腹との結びが切れるということでもある。支点はほとんどの場合、相手に接している手であるわけだが、その手を無闇に動かすのがよくない。腰腹と手の結びがなくなるからである。手が腰腹と結んでいなければ、手先に腰腹、体幹の力が伝わらず、手先の力しか使えないので、大きな仕事ができないことになる。

もう少し小さな世界にも、支点がある。手の指にある親指である。技を掛けるとき、手の振舞い(遣い方、動かし方)は無理なく、自然でなければ技は上手く決まらない。そうでないと力がぶつかったり、相手と切れて離れてしまい技がかからない。

手の振舞いがスムースに行き、手先に腰腹の力が集中するためには、親指が大切である。親指を支点として小指と手刀を内や外に回転させながら、相手と密着したり、相手を引き出すのである。このとき支点の親指が動いたり、しっかりしていなければ、技は乱れてしまう。

支点の親指が動かないというのは、じっと固定していることではない。外から見ていれば、支点の親指は動いている。これは動いている地球の上や電車の中でじっとしているのに、外から見れば動いているように見えるのと同じで、腰腹と連動する手の支点はそれらの動きと共に動くので、あたかも支点が動いているように見えることになる。しかし親指は支点として動かしては駄目なのである。

親指を支点として遣うことが大切だと意識でき、またその最適な稽古は、片手取り転換法であろう。持たせた手の親指を支点にし、支点をなるべく動かないようにし、その対極にある小指と手刀を返すのである。腰腹と手先が結んでいれば、腰の力が小指と手刀に集まり、相当の力が出る。相当の力というのは、腕だけの力と違う腰の力で、通常の体の裏の力ではない表の力ということである。

もう一つ、親指が支点となって対極の小指と手刀を動かさなければできない典型的なものに、横面打ちの捌きがある。親指の支点がなかったり、十分働かないと、相手の手に自分の手をぶつけてしまうことになる。小指と手刀で、打ってくる手をくっつけて相手を引き出さなければ、技に繋がらないし、先に進めない。(写真)

もちろん、親指だけが手の指の支点ではない。相手の攻撃や掛けようとする技によって、全ての指が支点として遣われる。特に、小指はよく支点となる。典型的な技は、片手取り四方投げである。小指を支点にし、対極の親指を返す(内に回転)と相手が崩れ、相手がついてくるのである。

また、支点を親指から小指へと、指の支点を変える稽古法もある。その典型的なものが呼吸法である。特に、片手取り呼吸法は、親指を支点として小指側で相手を引き出し、そして次に小指を支点に親指を反転して返し、相手が伸び切ったところで、手刀で真下に切下し、親指を支点とし、小指側を反転させて収める。

指でも支点を意識して遣わないと、技はなかなか決まらないものである。指を意識して、腰腹としっかりむすび、支点は動かさず、その支点の対極を遣うように注意して稽古をすれば、支点になる親指や小指が鍛えられよう。