【第146回】 上腕三頭筋

現代の合気道では、柔道のように相手を手で引き付ける技はないことになっているので、手(上肢)の屈筋はあまり遣う必要がない。

合気道では上肢の屈筋ではなく、主に伸筋を遣うことである。上肢の伸筋は「上腕三頭筋」と「三角筋」である。この筋肉は、「上肢の後面(手背側)に位置する筋で、上肢の伸筋といい、主に上肢の関節の伸展に働く。中でも上腕三頭筋は上腕におけるほぼ唯一の伸筋であり、肘関節の伸展に働き、三角筋(後部)とともに肩関節の伸展(後方挙上)にも作用する。」(『人体解剖ビジュアル』)とある。もちろん、上腕の下に繋がる腕(前腕)にも伸筋があって、手首や指の伸展に働くが、今回は大きな力を働かせる上腕の伸筋「上腕三頭筋」の鍛え方を考えてみることにする。

上腕三頭筋は、上腕の後部(裏側)の筋肉。力こぶが出るところの裏側にあたり、上腕の筋肉の2/3を占めるので、力こぶを出す上腕二頭筋より筋肉の量は多く、より大きな働きをするはずである。

上肢の屈筋より伸筋の方が強いことを証明するもののひとつに、弓がある。弓を引くときは、弦を引かずに固定し、上腕三頭筋の伸筋を遣って弓を前に押し出している。たいていの素人は恐らく、弓を固定して弦を引っ張って矢を放つだろうから、上腕三頭筋の伸筋でなく、上腕二頭筋の屈筋をつかうことになり、矢が飛ばず、当たらない事になる。

合気道の稽古を真面目にやれば、当然、この上腕三頭筋が鍛えられていることになるはずである。特に、諸手取り呼吸法はその典型的な稽古法であろう。屈筋を使って手を折らず、また手先から動かさずに、脇を締めてこの上腕三頭筋を遣って動けばいいのである。そしてこの感覚で片手取りの呼吸法でも、四方投げでも、一教でもやっていけば、自然と上腕三頭筋それに三角筋などの伸筋が鍛えられるわけである。

木刀や鍛錬棒を、この上腕三頭筋を意識しながら振るのもよい。体の部位を鍛えようと思ったら、その部位に意識を集中することが大事である。意識を入れると、その部位がいいとか悪いとか、ああしろ、こうしろなどと言ってくれるものだ。

また、腕立て伏せの運動もいい。ただし、腕を屈することではなく、屈した腕を伸ばすことに意識を入れるとよい。屈筋ではなく、腕の伸展ということを忘れないことである。

参考文献  『人体解剖ビジュアル』(医学芸術社)