【第138回】 手腕(てうで)のねじり
合気道の動きの基本の一つは「螺旋」である。技を掛けるにあたって、手を直線的に遣っては、相手に自分の力が伝わらないし、折角持ってくれている相手の手を引き離すことになり、またぶつかることにもなるので、合気道にならない。手も螺旋で遣わなければならない。
人間の体の中で360度一回転できる部位は、前腕(まえうで)だけである。合気道では、小手と言っているところである。この前腕にはとう骨と尺骨の二本の骨があるが、どうもこの二本の骨があることに、前腕が他の部位より多くねじれる秘密があるようである。前腕の先にある手も、後の上腕(二の腕)も、これほどは捻れない。ということは、前腕は捻るように出来ていて、前腕は捻って遣わなければ、いい仕事ができないということかもしれない。
合気道の技を掛けるとき、前腕とそれに繋がる手と上腕を螺旋で遣わなければならないが、それが身につくまでは容易ではない。意識しながら稽古をし、身に付けていかなければならない。むやみに手や腕を直線的に動かしていくら稽古しても、螺旋の動きになっていなければ技は上手く掛かからない。
手腕が螺旋に動くためには、腰腹と手腕が連動していなければならない。先ず手先と腰腹をしっかり結んで繋がっていなければならない。繋がったら腰腹から力を手腕に伝え、手腕は押したり引いたりするのではなく、正中線上に置いた手は、ただ螺旋で回転する(返す)だけである。
この手のねじりと返しの稽古に相応しいものに次のようなものがあるだろう。
- 正面打ち、横面打ち(一人稽古)
ポイントは、手刀の刃筋を立てることと、肩を貫いて打つこと。これが出来れば、次に正面、横面左右、水平(胴切り)左右を切って、「米」+胴切りを手を返しながらやるとよい。
- 相対稽古による片手取り転換運動
ポイントは、手は自分の体の中心に置く。手を動かさないで、腰腹で転換する。手先をまっすぐに伸ばし、剣のように手を出し(手は床に直角、つまり手の平を下や上に向けない)、転換に合わせて親指を中心にして、小指に力を集めながら手を90度内へ回転して手の平を上に向ける。正しく手が返っていれば、持っている相手の手は自分の手腕の下に収まる。
- 片手取り呼吸法
ポイントは、前項のごとく剣のように出した手を親指を支点として小指を返し、手の平が上を向いたとき、今度は小指を支点として親指を内へ返し、腕を内側へ回転しながら中心線上を上げていくと、腕が相手の首に掛かる。掛かったらば、相手の首を小指側の腕で切り落とすようにして崩し、崩れたら手の平を90度回転し、手の平が上を向くようにして収める。つまり、手の平は90度、90度、90度と反転、反転する。
- 片手取り四方投げ
ポイントは、相手の腕を螺旋で引き出すことである。先ず相手が持っている手の力を殺すために、相手の持っている手首の静脈が出るように自分の手を小指(または親指)を支点に返すと、相手とくっ付き、相手は崩れ、自由に動かすことができるようになる。
- 両手取り内周り小手返し
ポイントは、手と足が連動して動き、両の手の平を、自分の顔を写す「手鏡」のようになるまで返す。持たせたところから「手鏡」まで、手は90度返ることになる。手の返しが足りないと、小手返しにはならない。
- 後両手取り
ポイントは、持たれた手を腰の側面に置いたまま、両手を前に向ける。脇を開けずに、脇を擦るようにして腕を上げ、上げたところで手を返して甲が上を向くよう(ほぼ135度から180度)返す。手が上手く返れば、両手を押さえている相手の腕が上にきて、くっ付いて離れなくなる。ここから、呼吸法や技を続ければ、反転、反転の手の返しの更なるよい稽古になる。
- 横面打ち
ポイントは、横面を打ってくる相手の腕を弾かず、くっ付けるよう、体の中心から上げた手を親指を支点にし外側に回転し、小指に連動している腹の力を集中しながら、腹からの力で手の甲が上にくるまで返す。手は接したときの垂直から手の甲が上になるまで90度回転することになり、相手の手を弾かずに、90度回転しながら、相手を摩擦で引き出すことになる。
螺旋の動きになるよう、ねじったり返したりして、手腕(てうで)を鍛える必要があろう。
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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