【第130回】 力(りき)みをとる

合気道は相対稽古で相手に技をかけて倒したり、押さえたりして練磨するが、相手がいるとどうしても闘争本能が出てきて力んでしまうものである。また人は、力まないと一生懸命やったという実感をもてないという性があるようなので、必要以上に力むようである。

だが、力みはどんな武道、スポーツ、芸能でも悪とされ、避けなければならないとされる。合気道でもそうだが、力めば力んだところで力が切れてしまって、力が必要なところに伝わらない。そうすると、力も出ないし、流れていかず、姿形や動きも美しくないからである。

「力みをとる」とは、体の中での力の流れのひっかかりを無くすことでもある。いくら意識して力を抜いても、力がひっかかりやすい部分がある。例えば、手の7つの関節(特に肩)、胸、腹、腰、膝、足首などである。ここは力がひっかかりやすく、力みがちになりやすいところでもあり、また緊張や気持ちが表われやすいところでもある。

これらの部位のひっかかりを取り去ることを、合気道では「カスを取る」という。カスが溜まっているから、ひっかかって自由に動かすことができないし、力が伝わらないので、技も満足に掛けられないことになる。合気道の技は体のカスが取れるように出来ているので、稽古をまじめにきちっとやればカスは取れていくはずである。特に受けをきちっとやるのがいい。極限まで伸ばすことである。つまり自分の伸びる限界より紙一重上まで伸ばしていくことである。

指先から肘までのカスをとるのはあまり難しくないが、肩のカスは中々取り難いようだ。肩のカスは肩を動かして取るだけでは取れないからである。手の最後の関節である胸鎖関節を使わないと、肩を十分に動かすことはできないから、肩のカスは取れず、肩に負担をかけて痛めることになりかねない。

胸と腹のひっかかり、ツッパリを取るには、呼吸であろう。吸気によって下腹を膨らませるといいようだ。息を吸うと胸壁と腹壁がリラックスし、柔軟になり、上体と腰・腹がむすびつく。胸壁をゆるめると広背筋や菱形筋が大腰筋と繋がり、腰壁をゆるめると下肢と大腰筋が繋がると感じられる。

膝の力みは、膝がつま先より前に出てつま先に重心が掛かるか、逆に重心が踵よりに落ちているからと考える。つま先や踵に重心をかけて動くと、体重がもろに膝にきてしまう。膝に体重がかかるので力みが出るし、痛めることになる。

この力みを取るためには足の親指の付け根にある「拇指球」に、踵からの体重を移動することである。拇指球に体重を載せて足首の力みをとると、ヒラメ筋や腓腹筋などが働いて、膝への負担がなくなり、上体、腹・腰の重みが膝を貫けて足裏まで通るようになる。また、拇指球に力が載ると、腰が立ち、腰のカスも取れるようだ。

これで足元から手先まで力が貫けることになり、体全体の力を遣うことができるので技がかかりやすくなるはずである。

参考文献  『人体解剖ビジュアル』(医学芸術社)