【第13回】 呼吸、息の使い方

呼吸は大切である。人間は誰でも生まれるときに産声をあげて息を吐き、死ぬときには息を引き取る。日常生活では呼吸、息の使い方など意識する必要もないが、武道をやるとその重要さを意識せずには済まされない。

稽古をやって辛いことはいろいろあるし、その辛さや程度も稽古日数によって変わるが、有段者になっても辛いのはハァハァと息があがることだろう。
なぜ息があがるかというと、呼吸が動きと合っていないからだ。昔から、下手は動きに合わせて呼吸をし、上手は呼吸に合わせて動くといわれている。呼吸に合わせて動くためには、ある程度強靭な肺筋と大量の空気が入る肺活量は不可欠であるが、呼吸の仕方、息の使い方が重要になる。

息があがらないようにするには、息を大事に使うことである。まず、一(ひと)技一(ひと)呼吸ということで、技をはじめて終わるまで一呼吸でおさめる。これは取りも受けも同じである。お互いに呼吸を合わせるので、深い合気の稽古ができるのである。押さえるとき、押さえられるときに息を吐ききり、起き上がるときに息が自然に腹に満ちるように動く。初心者は先輩や高段者にどんどん投げてもらい、受けでこの呼吸法を学ぶのがよい。投げる方が疲れて参ったと言うようになったら卒業である。本来、投げる方が受けるより大変なのである。

呼吸で使うのは横隔膜であるが、横隔膜には肋骨の内側についている呼吸横隔膜と骨盤底のところにある骨盤横隔膜がある。これらの横隔膜は大腰筋で繋がっているらしいので、この上下の横隔膜呼吸は大腰筋の活性化になるわけだ。また、息を吸うときには骨盤横隔膜が開き、通常意識しても緩まない股関節がゆるむので、スムーズにすばやく動けるようになる。従って、開脚でストレッチをするときは、骨盤横隔膜で息を吸いながら床に胸をつけるようにすることである。(息を吐くのではない)

尺八奏者の中村明一氏は、氏の著書『「密息」で身体が変わる』で、尺八の演奏では「密息」という呼吸法が最適であるとし、武道でもこの呼吸法を使うべきである、と述べている。「『密息』とは、腰を落とした(骨盤を後ろに倒し)姿勢をとり、腹は吸うときも吐くときもやや張り出したまま保ち、どこにも力を入れず、身体を動かすことなく行う、深い呼吸法です。外側の筋肉でなく深層筋を用い、横隔膜だけを上下することによって行うこの呼吸法では、一度の呼吸量・吸気量が非常に大きくなり、身体は安全性と静かさを保つことができ、精神面では集中力が高まり、同時に自由な開放感を感じます。」(「『密息』で身体が変わる」)
合気道の稽古では、道衣を帯で締めその上から袴をはくので、常に帯や袴がゆるまないように腹を張るようにして、また、腰板に意識を集中するとよい。骨盤は倒しておくと動きやすい。

合気道の稽古では、まず気の体当たり、そして体の体当たりといわれるが、息を吐いて相手とぶつかると相手をはじき飛ばすことになって、合気ができない。相手と合気し、相手と一体化するには、相手と接するまで息を吸わなければならない。つまり骨盤を倒して置くことである。そして相手を投げるときや押さえ込むときに骨盤を立てて息を吐くということになろう。