【第121回】 身体を使いこなす

人間の脳のほとんどは、使われないまま消滅してしまうといわれる。もし人間が脳の全てといわないまでも、もう少し多くの部分を使うことができれば、何か素晴らしいことができるのではないだろうか。

人間の身体も、脳と同じ割合かどうかは分からないが、まだまだ使われていない部分があるように思える。例えば、目には見えない深層筋をもっと使えれば、「わざ」(技と業)は変わるだろうし、力の質なども変わるのではないだろうか。深層筋が鍛えられれば、年を取ってもその筋肉は衰え難いようなので、最後まで元気で動き回ることも出来るのではないだろうか。

合気道では形稽古を中心にした稽古をする。何度も何度も技の形を繰り返すことによって、身体に覚えさせているのである。繰り返しの練習をするのは大事であるが、ただ無闇に稽古をするのではなく、身体と対話をしながら稽古をするのがいいだろう。痛みを覚えたり、ぶつかって圧迫感を感じたり、不快な感覚がすれば、それは身体からの「それは正しくない」というメッセージであるから、そのやり方、その筋肉の使い方は変えなければならないということになるわけである。

身体との対話とは、身体の部位の対話で行なって出てくる結果が、身体トータルでどういう結果になるかを感ずる感覚であると言える。初めは手首、前腕、上腕などの身体を部分部分で分けて対話し、次に筋肉や骨に対話し、筋肉でも浅層筋と深層筋に分けて、ひとつひとつと対話ができれば、その都度活性化していくのではないだろうか。

合気道で「わざ」を掛ける場合、上手いひとの筋肉の動きは外から見えないものである。外からは見えなくとも、中の深層筋が働いているはずである。稽古で深層筋を鍛えるべく、それを意識して、一つでも多くの筋肉を活性化できれば、「わざ」は変わるはずである。

人間の身体動作や力の量・質がどれだけ変われるのか、それを楽しみに、身体の各部位や部分を活性化し、少しでも多く使えるように稽古していきたいものである。