【第12回】 膝を痛めない歩み

合気道の稽古をしている人の中にも、膝を痛めている人がかなりいるようだ。正座が苦痛になったり、出来なくなるとか、膝にサポーターをしないと不安な人が多いし、しかも年々増えているように思える。われわれが稽古をはじめたころは、よほどの高齢者でなければ、膝が痛くて座れない稽古人など見かけなかった。

稽古を見ていると、膝に負担がかかるような体の使い方をしているのがわかる。脚が体より前に出てしまっているので、前に進む時に爪先から入ってしまっているし、体をひねって使っているため、膝への負担が大きくなってしまうのである。これでは、稽古をすればするほど膝が悪くなってしまうだろう。
現代の日本人の歩き方は、昔から見ると変わってしまっているのではないか。つまり、骨盤を下げ、膝下を中心に歩く膝下歩行が多いのである。年を取って足腰が弱くなり、歩行が難しくなると、歩く時の中心が下にさがり、歩幅が小さくなってチョコチョコ歩きになりやすい。道場の稽古でも、そのような足の使い方をよく見かける。

膝を痛めない歩き方とはどんな歩き方かというと、大腰筋をつかった歩き方である。脚が腰から出ているような歩き方であるが、腰といっても大腰筋の先端部で、肋骨のすぐ下なので、思っているよりも相当上に当る。この大腰筋歩行によって脚が長く使えるし、脚の力も最大限に発揮できる。さらに、足を地に着けるときはフクラハギ(深層底屈筋)を使って踵から着地し、全体重が真上から乗るようにする。
大腰筋は菱形筋とつながることによって、強い下半身の力を上半身に伝える。大腰筋が働かないと手さばきだけになり、腕や手の上半身の働きを損なうことになる。

大腰筋を使った歩き方をしているのは、刀をさして歩いていた侍と、侍の身体作法を現代に残しているお能である。お能のすり足などの身体動作を研究すべきであろう。