【第103回】 腰

いうまでもなく、腰は身体の要(かなめ)である。武道ではとりわけ腰は重要な働きをする。武道の褒め言葉には、「腰ができている」「腰がすわっている」「腰が落ちている」等々がある。腰は武道の体の出来ぐあいを判断する要でもあるだろう。

合気道ではほとんどの場合手で技をかけるが、相手も手で攻撃しているので、手の力に対して手を使っていては五分五分となってしまい、結局は争いになってしまう。技をかけるにあたって争いにならないようにするには、異質の力、相手の手より強力な力を使わなければならない。その要の力とは、腰の力であろう。腰の力を手先に伝えて、その力を使えれば、多少の腕力でも制御することができるはずだ。かって本部道場の有川定輝師範は、「どんなに太い腕も、胴体より太い腕はない」と言われていた。

腰の力を使うためには、幾つかの条件がある:

  1. 腰と手と足が結んでいなければならない。手をちょっと引っ張られて手が動いてしまうようでは、手が腹と結んでいないことになる。言うならば、腰から手と足が出ていて、それが鉄筋のようなもので繋がっているようなものだ。
  2. 手と足と腰は連動して、陰陽で左右交互に動く
  3. 手にかかる重さが腰にくるようにする(肩に引っかかってそこで止めないようにする)
  4. そして、その腰にかかった力を手先に伝え、その抗力を使って技をかける
腰を鍛えるとともに、腰の力を使うための稽古は、ふだんの道場稽古でやっているわけだが、よほど意識して稽古をしないと、それには気づかないものだ。形(かた)の中には腰を正しく使わないと上手くできないものがある。例えば、「半座半立ち 四方投げ」である。立ったところから手を取って攻撃してくる相手は、上から押さえつけるので、坐っているものが手先だけで相手を崩すのは不可能である。相手の手の力より強力な力を使わなければ崩れないし、技はかからない。従って腰を入れて、腰の力を使わなければならないのである。

「半座半立ち 四方投げ」は腰を鍛えるにいい稽古法であるが、勿論、慣れてくれば、立ち技での四方投げでも同じようにできる。これも腰を鍛えるのにいい稽古になる。この他、腰を鍛える最適な稽古法に「後両手取り」、「座技呼吸法」、それに「腰投げ」がある。いずれも腰を上手く使わないとできないものである。

相対稽古以外で腰を鍛える稽古には、例えば「鍛錬棒振り」「四股」「山歩き」がよい。街中での稽古としては、少し重いカバンなどを持って歩くとよい。その重さが腰に来るよう歩くのである。肩や手が痛くなるようでは、まだ腰が使われていないことになる。