【第100回】 肩甲骨(けんこうこつ)

人間のからだのうち、手足はよく動くし、また首も結構動くものだ。かつて開祖は自分の頭を弟子たちに抑えさせ、それを投げたり崩したりしておられた。

最も動き難いのが胴体(体幹)であるが、その内でも肩の部分は他の箇所と比べると動かしやすい。合気道の形(かた)には、この肩を使ってやるものが結構ある。肩取り面打ち、両肩取り、後両肩取り、半座半立の後両肩取りなどである。このような形があるということは、肩の働きは大事であるので、肩のカスを取って、肩が十分動くように練磨しなさいということである。

肩が十分に使えないと技は効かない。典型的な技は二教裏(小手回し)である。この技は手で決めるのではなく、肩で決めるので、肩を柔軟に鍛えていないと、相手が少しでも強いと効かないことになる。

合気道の稽古法は、相手が持ってきた部位を「手」として使うことだから、肩を掴んでくれば、掴まれた肩を手として使うようにしなければならない。肩で相手の掴んでいる手を「制御」することである。そのためには、肩のカスを取って、少しでも大きく、シャープにそして強靭に動くようにしなければならない。

肩は、動物もそうだが、通常開くことは少ないので、稽古で意識して開かなければならない。前述の肩取りの稽古でも、通常の感覚でやると、肩が閉じた状態でやることになり、稽古の意味は半減する。

肩を開くとは、肩甲骨を開くということでもある。肩甲骨は、左右一対の後方から肋骨を覆っている逆三角形状をした大型の骨である。肩を動かすきときに主に使うのが肩甲骨であろう。

腕は、そのまま上げてもほとんど肩と水平ぐらいの高さまでしか上げることはできないもので、それ以上に上げる場合は、肩甲骨を内転、外転して開きながら上げなければならない。肩関節は2段ロケットのように動くと言えよう。まず1段目で腕が水平ぐらいまで上がり、2段目で肩甲骨を開きながら上げていく。肩甲骨を開くのには、脇を開き、胸を開くようにし、息を吐くのではなく、腹に吸い込むようにするといい。

肩甲骨を開く稽古をするには、木刀の素振りがいい。木刀を真っすぐ天を突くように上げ(一段目)、上がりきったところで脇を開き、更にあげる(二段目)。この稽古を続ければ肩は開いていくだろう。木刀で出来たら、素手で同じようにやってみるといい。手を真っすぐ上げて脇を開くと、肩も開く感じがするはずである。しかし、このままではなかなか「わざ」としては使えない。強靭さがないからである。強靭な開く肩をつくるには、肩取りの稽古を沢山し、肩が手のように動くようにすることである。

肩取りの稽古では、肩甲骨を使い、極力手を使わないようにすることが重要である。また、一人稽古としては、鍛錬棒を肩甲骨が開くよう、大きく回すように振るのが効果的である。2〜3kgの鍛錬棒の重さを腕や肩に感じなくなれば、肩が抜け、相当強靭な肩甲骨ができたといえるようだ。


資料  『人体解剖ビジュアル』(医学芸術社)