【第84回】 初め円を画く

合気道の形(かた)と「わざ」を稽古するにあたって、相手を打ちにいったり、またそれを捌いたり、技をかける初めの動作は円でなければならない。正面打ちや横面打ちで相手が打ちに来る時の手先も、それを受ける手捌きの軌跡も、肩や胸鎖関節を中心にした円である。片手取り四方投げでも、持たれた手先は、通常は「ハラ」を中心にした円を画くように使わなければならない。円を画かずに直線で動くと、相手に脇を締めさせたり、相手の前に立つことになり、技が効かないだけでなく、相手に反撃される死地に立つことになる。もちろん、技をきめる最後は直線的動きもある。

「合気というのは、初め円を画く。円を画くこと、つまり対象力。」と開祖は、「合気道新聞No.58」で言われている。手の動きは基本的には、上下、斜め上下左右、横左右、突きの9つであるが、突きを含んですべて、「ハラ」を支点とした円の軌跡である。合気道の突きは空手のような直線的なものではなく、下げた手を弧を画いて突く。この動きは短刀を使ってやると分かりやすい。空手のように手を脇に構えてから直線で突くと、合気道ではなくなる、と故有川師範もいわれた。

「わざ」の初めに円を画くのは手先の軌跡だけではなく、腕の回転運動もきれいな円を画かなければならない。この回転がないと、相手の力を弱めたり、合気の引力で相手の手をくっ付けておくことはできず、相手の手を逃してしまうことになる。この腕の回転は指先の円運動ともいえる。小指を支点とした内回転と、親指を支点とした外回転である。


対照力が働き合う物体の多くは円を画いて動く。地球や惑星は太陽の周りをまわる円運動であるし(写真左)、月も地球の周りを円を画いて回っている。ミクロの世界でも核(陽子と中性子)を回る電子も同じく円運動である(写真右)。円を画く動きというのは自然であり、最も無駄のない理に適ったもので、最も強く、美しいものだろう。

二つの物体には、遠心力と求心力からなる対照力が働く。合気道の稽古でも二つの物体(二人)に対照力が働くので、動きは円になるのが最も自然となる。 この画いた円を邪魔するものは、宇宙の法則を乱すことになり、敗れることになる。合気は絶対不敗であるというのは、このことに関係しているのだろう。