【第78回】 敵をつくらない

道場にはいろいろな人がきているので、様々な人と稽古をすることになる。一緒に稽古をやり難い人、やりたくない人、強そうで寄り付き難い人等もくる。中には一度一緒に稽古して争ってしまい、二度とやるまいと思うような敵をつくってしまったりする。

しかし開祖は「真の武道には敵はありません。真の武道とは愛の働きであります。殺す争うことではなく、すべてを生かしそだてる、生成化育の働きであります。」と言われた。敵をつくってはいけないのである。

春日大社の葉室頼昭宮司は、「この地球上には、人間に病気を起こさせるばい菌や微生物などの異物は10の15乗、つまり100兆も存在するという。ですから、この100兆すべてに対して抗体をつくるように進化してきたのが、人間だということなのです。そのために40億年かかっているわけです。生命が5億年で誕生したのに、どうして人間が誕生するのに、それから40億年もかかったのか。ここに人間誕生の神秘があると思われる。」という。つまり、100兆のすべての異物にたいする免疫システムが進化したから、人間の体になったというのです。例えば、かぜ菌、ガン、エイズなどのウィルスがなかったならば人間には進化しなかったわけで、これらのウィルスや菌を防ぐ抗体をつくってきたおかげで人間ができたという。

また、「すべてこの世の中というものは、そういうふうになっていると思うのです。悪いものだといって切り捨てるのではなくて、悪いものをプラスに変えていく。悪いものをプラスに変えるところに、人間の進化がある。」と葉室氏は言う。

敵のおかげで免疫ができ自分が成長するということになるわけだから、苦手だったり嫌いな人とも、敵としての関係を持ち続けるのではなく、その敵の免疫抗体をつくり、免疫抗体をつくるシステムを身に備えていけば、敵はなくなるし、強敵であればあるほど自分もそれに比例して強くなるのだから、強敵ほど自分にとってありがたいということになるのではないか。あいつは嫌な奴だとか、あの人とはウマが合わないなどと言っているのは、まだ免疫が足りないか、免疫が出来ていないことであろう。

葉室氏は科学的なデータをもとに、敵(悪いもの)はないと言われたが、開祖はそのような情報を得ていなかったわけであるから、ご自身で感得されたのだろう。素晴らしいかぎりである。この「敵をつくらない」、「悪いものはない」の考えを、合気道や他の武道は勿論のこと、今、戦争などで争っている国や人々にも是非知ってもらいたいものだ。

参考資料: 「大祓知恵のことば」(葉室頼昭著、春秋社)