【第73回】 無から有に

宇宙には今、数え切れないほどの星が見える。またそのひとつである地球には人や動物や植物などが生存している。しかし宇宙のはじめ、またそれ以前の大虚空には、天も地もなく、時間も空間もなく、何もなかった。その何もないところから、今のような無数の星、地球やその上に生物が存在しているのである。現代の科学でもまだ説明できない。摩訶不思議である。

開祖が一時過ごされていた大本教では、あらゆる物が無から生まれ、無から有に至るのに、四つの段階を経るという。つまり「無の無」「無の有」「有の無」「有の有」である。そして宇宙の成り立ちを、@大虚空。天も地もなく、時間も空間もない時代(「無の無」) A一点のポチが現れる。それが次第に膨れ上がり一種の円形をつくる。そして霧よりも細かな2種類の清い正反対の気を放射し、この円形をくるむ。(「無」の「有」) Bこの相反する霊素と体素が結ぶことによって新たに力素が生まれ、ここで初めて宇宙が動き出す。このとき一番最初の言霊「ス」が生じた。(「有」の「無」) C言霊が満ちたときに一種の言霊のビッグバン的現象が起こり霊魂の元素、物質の元素がつくられた。(「有」の「有」)(*カッコ内の「無」「有」は筆者が分類)

出口王仁三郎の孫にあたる出口和明氏は、無から有に至るのに四つの段階を「設計図で家を建てる」ことを例にして分かりやすく説明されている。

「無」の「無」
「無」の「有」
「有」の「無」
「有」の「有」
何もしないが建てなければという必要性が無意識のうちにある 建てる決意をしたが、設計図無し 設計図あるが、家無し 家有り

これをイメージを主体とした合気道の稽古に当てはめてみると、
「無」の「無」
「無」の「有」
「有」の「無」
「有」の「有」
何もしないが、相手を倒す必要性が無意識のうちにある 倒す意志有って、動かないが、相手が倒れたイメージ(設計図)をもつ イメージ(設計図)の通り動く 相手がイメージ(設計図)通り倒れている

開祖の高弟である多田師範は『植芝盛平と合気道』(合気ニュース)の中で、「先生が本当に調子の良い時は、相手が前に立つと、相手の跳ね飛んでいる姿が眼前に浮かんで、次の瞬間、自動的に身体が動いて、今見たのと同じことが起きたといわれます。」と書かれている。以前は摩訶不思議でなんの事なのか全然分からなかったが、この「無」から「有」への四段階に当てはめて考えると分かるようである。

開祖は、「真空の気」が分からなければならないとよく言われていた。「真空の気」とは宇宙のエネルギーであろう。宇宙には何もなかったが、今はいろいろなものが生成されている。何もないようだが、必要なもの、希望するものの素因がある。一切のものが「無」から生まれてくる。そして四段階を経て出来上がる。新しい芸術も、科学の法則や物質も、文学の筋やアイディアも、そして合気道の技も宇宙にあったし、ある。それを「有」のカタチにするのがわれわれ人間のつとめであろう。