【第627回】  天の呼吸と地の呼吸を合わせて技を生み出す

これまでの腕力や体力の力に頼った技づかいをしていたときは、自分の好きなよう、思ったように稽古をしていけばよかったが、力に頼らない技づかいをしたいと思うなら、大先生が『合気神髄』や『武産合気』に言われている教えに従って稽古をするようにしなければならないと考える。これまでの我の稽古、魄の稽古、見える次元の稽古から、己を無にし、宇宙の営み・法則に従う、見えない次元への魂の稽古に入っていかなければならないと考える。

しかし、これはそう簡単ではない。今、人は、物質文明に生きているだけでなく、この文明は数千年続いてきており、相手に負けない、勝とうとする魄の力を忘れるのは容易ではないし、またその上、大先生の教えが難解であるからである。

だが、大先生は、合気道は魂の学びであるといわれているし、そしてそのために何をどのようにしなければならないのかを、難解ではあるが、はっきりと示されているわけだから、真の合気道を学ぶのならば、その難解な教えを解読し、技に取り入れ、その教えを会得しなければならない。そうしなければ、合気道の目標である宇宙との一体化ができないからである。

そのために、この『合気道の思想と技』などで、大先生の教えを研究しているわけであるが、今回は「天の呼吸と地の呼吸を合わせて技を生み出す」(武産合気 P.76)の大先生の教えを研究テーマとする。

これまでは、技は手足や腰の体と息で生み出して来ていた。しかし、今度は、技は天の呼吸と地の呼吸を合わせて生み出さなければならないというのである。
力で技を掛ける魄の稽古をしていると、必ず限界にぶち当たる。力ではどうしても動かなくなってしまったり、争いになってしまうのである。
ここから脱出するためには、この「天の呼吸と地の呼吸を合わせて技を生み出す」が必要になるわけである。

技を生み出すために「天の呼吸と地の呼吸を合わせる」わけだが、合わせる天の呼吸と地の呼吸がどのような呼吸であるのか、そしてその呼吸をどのようにつかうかということになる。
まず、天の呼吸である。天の呼吸は、腹から頭のてっぺんの中心を貫き、天に貫く息であり、地の呼吸は、腹から足底を通して地中に貫く息であろう。
これが天の呼吸で縦の呼吸である。

この天の呼吸に地の呼吸(潮の干満)の横の呼吸が腹で合わさると、腹を中心として息が上と下、前後左右の横に向かうと共に、気(宇宙生命力)が縦横上下左右に流れ、そして腹に集まるのである。
「天と地の気が組み合わされて万物が生まれる」と大先生はいわれているから、ここに技が生じることになるわけである。
更に、大先生は、「天の呼吸、地の呼吸(潮の干満)を腹中に胎蔵する。自分で八大力の引力の修行をして、陰陽を適度に現し、魂の霊れぶりによって鍛錬し、この世を淨めるのです(つまり、技を生じる)」と云われている。
尚、この呼吸が「阿吽」の呼吸であると考える。

ここで一つ重要なのは、天の呼吸によって地も呼吸するということである。
それ故、まずは腹から、頭のてっぺんの真中を貫く天の呼吸をし、己の心体を天と地に結ばなければならない。縦の息をしっかりすると、横の息がはじまり、下を向いていた手が自然に腰腹の高さまで上がり、更に胸での横の呼吸によって、その手は更に上まで上がることになる。
それ故、横の手から先に動かしても、天の呼吸も地の呼吸も動かず、力も出ない事になる。所謂、魄の稽古になってしまい、争いの基になるわけである。

諸手取呼吸法は、この「天の呼吸と地の呼吸を合わせて」やらなければならない。大先生は、「天の息と地の息と合わして武技を生むのです」とはっきりといわれている。
また、正面打ち一教もこれでやらなければならないが、上手く出来るためには、手足や腰を陰陽十字につかうことを身につけておかなければならない。
この段階にくるまで、やるべき事をやっておかなければ、「天の呼吸と地の呼吸を合わせて技を生み出す」ことはできないということである。