【第623回】  阿吽の呼吸でないと間合いに入れない

技を掛ける相手との間合いに入って、相手と接し、そして制して技をつかうのは難しい。間合いに只入ることはできるが、それでは技にならない。何故なら、相手はピンピン生きているし、己の領域を侵害されたわけだから相手に反撃の心が起き、叩かれたり、蹴られてしまうことにもなり、自殺行為だからである。

間合いに入るためには、息を吐いて体を進めても入れない。攻撃してくる相手も息を吐いて、体を進めてくるからぶつかってしまうからである。体と息をぶつけ合っての稽古は魄の稽古である。稽古の初めには、この稽古で体と息を鍛える事は必須だが、段々と魄の稽古から脱しなければならない。
この論文は当然、魄の稽古から如何に脱するかということで書いている。

間合いに入る目的は、相手とくっついてしまうこと、一体化となることであり、そしてこちらの体と心の一部、つまりこちらの分身にしてしまうことである。
それでは間合いに入るためにはどうすればいいかということになる。
それは阿吽の呼吸の「阿」で息を引きながら入るのである。

阿吽の「阿」で息を吸う(引く)と、

阿吽の呼吸の「阿」にはこのような働きがあり、間合いに入るためにはこの働きをつかうことであると思う。
例えば、正面打ち一教や正面打ち入身投げなどは、これでないと入れないはずである。

勿論、この阿吽の呼吸を使うに当たっては、腹と手足が結び、同じ側の手と足が連動して動くことが必要であるし、手先まで気(宇宙エネルギー・宇宙生命力)が通り、体は気ではち切れんばかりに膨らむようにならなければならない。

更に、間合いに入る際、この阿吽の呼吸でやれば、己が入るだけでなく、相手をこちらに呼び込まれるのである。自分が半分出て、相手を半分出させるのである。これで我彼対等で、合気道の精神であるはずである。

このように阿吽の呼吸には、大きな力と働きがあるがあり、大先生はこの「阿」での息を「真空の気を吸う」と言われているのである。「真空の気」とは、「宇宙に充満している。宇宙の万物を生み出す根元」であり、その「真空の気」がどのようなものなのか、どのような働きなのかが分かりやすいのが、弓を引く時であると言われ、「弓を気いっぱいに引っ張ると同じに真空の気をいっぱいに五体に吸い込む」と言われているのである。
だから、間合いに入る際は、弓を引くときのように、「阿」で気を体一杯吸わなければならないことになる。

また、真空の気は己の阿吽の呼吸と森羅万象の阿吽の気と連ねることがでるといわれているわけだから、阿吽の呼吸によって宇宙と連なっていくことになるだろう。
阿吽の呼吸もまだまだ研究することがあるということである。