【第607回】  相手が自ら倒れるには

前回の603回「相手と和す」では、相手と和するためには、「その相対するところの精神を、相手自ら喜んで無くさしめる」ことであると書いた。
そのために、開祖のお言葉を紹介し、そのお言葉を理解し、身につければいいだろうと書いた。
今回は、それを技の形稽古でどのように実践すればいいのかを研究することにする。

相対の形稽古において、「相手と和す」ためには、技を掛ける側が相手を倒そうとしては出来ないし、受けが頑張っても出来ない。通常、われわれ初心者はこのような稽古をしているので、相手と和すことができないでいるわけである。

「相手と和す」ためには、受けの相手を倒すのではなく、受けが自ら倒れてくれればいい。大先生に言わせれば、これはそう難しいことではないようで、「相手の攻め掛かってくる無謀なる力を全面的に利用して、相手が己の無謀なる暴力のゆえに自らを抑制することができず、自ら空転して倒れるよう、気・心・体の妙用をもって導く“だけの話”である。」と言われているのである。

つまり、相手が自ら倒れるようにするには、気・心・体の妙用をもって導けばいいといわれるのであるから、これを稽古で実行すればいいことになろう。
そこで実際にどのように稽古をすればいいのか、どのように気・心・体の妙用をもって導けばいいのかということになる。

相手が自ら倒れる時は、倒れる直前に相手は浮き上がり、相手の重力は消え、無重力状態になるから、相手が浮くように気・心・体をつかわなければならにことになるだろう。私の場合、坐技呼吸法、諸手取・片手取り呼吸法、入身投げ、天地投げで相手を浮かせ安いが、片手取り呼吸法で説明する。

  1. イーと息を出しながら相手に手首を掴ませる。ここで相手と一体になるのである。ここが肝心である。つまり、最初が肝心で、これを上手くやらないと、相手を浮かせるとことに行けないのである。
  2. クーと手首に息を引きながら気を入れ、気を体に満たす。気の感覚が分からなければ、息を入れればいい。息と気は違うもので、気が息を制御するのであるが、初めは難しいので、息で気(気持ち、精神)を出し、動かせばいいだろう。その内に、気で息を動かすようになるし、ならなければならない。
    この時、相手はこちらの手首を若干引っ張るようになり、手と体に気が満ちると、相手の体は突っ張り、相手の体が浮いてくる。
  3. 腰を十字に返しながら、体重を他方の足に移動するが、それに従って持たせた手も移動する。しかし、手・体で相手の手・体を攻めるのではなく、先ずは気が先行し、その気に従って手・体が動くことである。また、手は相手の手をくっつけて和し、制しており、気はこの呼吸法の技の形の軌跡を描く。
    ここで相手は浮き上がってくるので、後はムーの息で容易に倒れてくれることになる。

    ここが大事なところであるので、もう少し説明を加える。
    合気道の技は宇宙の営みを形にしたものであると言われるが、大先生はそれを「この世界は、やはり霊と体、つまり表があって裏があると同じように、物の根源と霊の根源で営まれている。」(武産合気 P.80)と言われている。

    これで【3】を説明すると、ここでは【3】での手が体、気が霊であり、そして霊(気)が表であり、体(手)が裏ということになる。
    つまり、霊(気)が表になり、体(手)は裏として、宇宙の営みのように働くようにしなければならないということになるだろう。
    初心者は、宇宙の営み・法則に逆らった、表と裏を逆さまにやっているから、上手くいかないわけである。
これは坐技呼吸法、諸手取り呼吸法、入身投げ、天地投げでも同じである。
これをやると相手は浮き上がり相手の重力は消え、無重力状態になる。この状態を好きなだけ続けておくことは可能だが、相手はしんどいので受けをとりたくなるのである。これを自ら倒れるということであると考える。