【第603回】
相手と和する
合気道は、勝負はないし、試合もない。相対で技を掛け合い、受けを取り合って技を錬磨しながら精進していく。技を掛ける取りと受けを取る受けの役割が左右と裏表と4回で交代するという稽古法なので、争うことはないはずなのだが、それでも争いになることがあるし、争いにならないまでも、受けの相手に頑張られて往生することは多々ある。
前回の「第602回 真の武道」で書いたように、合気道は真の武道であるから、相手を殲滅するだけでなく、相手の反抗心を無くさせて和合させるようにしなければならない。
それではどうすれば「その相対するところの精神を、相手自ら喜んで無くさしめる」ようにできるのかということになる。
有難いことに、その答えも開祖は我々に残して下さっている。
それは、「天地の道理を悟り、顕幽一如、水火の妙体に身心をおき、天地人合気の魂気、すなわち手は宇宙身心一致の働きと化し、上下身囲は熱と光を放つごとく寸隙を作らず、相手をして道の呼吸気勢を与えず、よってもって和し得ることを悟るべし」(合気神髄 P.170)
こうすれば相手はこちらと和すといわれているのである。
この開祖の言葉を理解し、身につけていけば、敵は頑張ることもなく、反抗もせずにこちらの技にのってくるはずである。
まず、この言葉を理解しなければならない。
- 天地の道理を悟る:
天地の成り立ち、働き、お蔭等を知ることで、そして己は天地と一体となるべきことを悟ることだろう。
- 顕幽一如:
わが身を顕界から幽界に置き、相手も顕界の見える眼で見ないで、見えない幽界の目(心)で見る。また、技を掛ける際も、顕界の力(魄)ではなく、その魄の力を土台にして、見えない幽界の力(魂)を主体につかうこと。
- 水火の妙体に身心をおく:
天の浮橋に立つということだろう。特に、最初に相手と接したときに、相手の身心にくっついてしまい、技を掛けてもくっついて離れなくなるようにする。
- 天地人合気の魂気:
天地と人とが合気して生じる魂の気。すなわち、手の働きは宇宙と身心一致の働きの現れでなければならない。
- 上下身囲は熱と光を放つごとく寸隙を作らず:
体を前後左右を気(エネルギー)で覆い、隙をつくらない。
- 相手をして道の呼吸気勢を与えず:
相手にわがままな心を起こさせないようにする。
これが完全にできるようになれば、相手と和して相手と一体化することができ、そして争うこともなくなるのだろうが、会得するのは容易ではない。
だから、少しずつでもその言葉や文章を理解し、身につけて会得していくほかない。そうすれば段々と稽古相手と和すことが出来るようになり、相手の反抗が無くなっていくものと考える。
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