【第552回】  もう一つの陰陽

合気道は宇宙の法則に則った技を錬磨しながら精進する武道である。その法則の一つに「陰陽」がある。働くもの(陽)と働くために待機しているもの(陰)が、規則正しく交互に機能しなければならないという法則である。手は左右にあるが、右左(みぎひだり)を規則正しく陰陽でつかわなければ技にならないし、足も同じである。
更に、肩も腰も同様に、陰陽の法則に則ってつかわなければ技にならない。

これは、これまで書いてきた陰陽であるが、今回はもう一つの陰陽を書く。
これまでの陰陽が、左右同時に手や足や肩や腰を陰陽につかうものであったが、今回の陰陽は、異質のものが対称的に働くという陰陽である。息と体・気・力が陰陽で機能するのである。

技を掛ける場合の大事な基本のポイントは、「息を吸い込む折には、ただ引くのではなく、全部己の腹中に吸収する。そして一元の神の気を吐くのである」(「合気神髄」P.14)である。
これで片手取り呼吸法をやってみる。息を思いっきり引くと、息は胸と腹中に入っていくが、持たせた手は気が満ちて手先に流れ、それに連れて手が伸び、腰腹からの力が流れる。息の方向と気・体・力の方向が引く(陰)と出る(陽)で陰陽に対称的働くのである。

更に、息を極限まで吸うと、腹が気で満ちてくる。そこで息を吐いてその相手を投げる(下に落とす)のだが、息を吐くと息は外に出る陽で働き、気・体・力は内に集まる(陰)の働きと、対称的に働く。

この陰陽の感覚が分かりやすいのは、床に腰を落とし、両足を開く開脚動作である。十分足を開脚し、息をちょっと吐いて上体を自然に倒れるところまで軽く倒す。今度は息を吸い込みながら極限まで上体を倒していく。息は腹中に集まってくるが、開脚している足(筋肉、気)は外側に伸びていく。

極限まで息を入れた後、今度は息を吐いていくと、息は出ていくが、両足の筋肉・気は腹に寄って来るはずである。
これが合気道的な開脚運動であり、最も効果的な運動方法であるだろう。

相手を投げるとか抑える最後の動作は難しいものである。この片手取り呼吸法でもこの最後の息を吐いて相手を倒すのは難しい。
その上手くいかない大きな理由が、息と体が陰陽でなく、吐く息も倒そうとする体の手も、陽と陽でつかうからだと考える。息と体(力)を陽と陽の陽陽でつかうから相手とぶつかったり、争いになるのである。

一方通行ではなく、常に陰陽表裏一体で動かなければならないのである。これが合気道の技の稽古の特徴であるといえよう。
特に、最後の一元の神の気を吐くのが大事であるが、難しい。
次回は、この「一元の神の気を吐く」を研究してみることにする。