【第536回】  天火水地の肉体

武道の達人、名人は誰もが一見しただけで、名人、達人であることがわかる。例えば、合気道の開祖植芝盛平翁や有川定輝師範などはその典型的なものであった。従って、そこには名人、達人としての何か共通するもの、共通要素があるはずである。例えば、貫禄、不動、威圧感、抱擁感、羨望、強力なエネルギー(気)などであろう。

これは、名人、達人は、その肉体と精神(心)が、ある次元に到達したということだろう。ということは、武道家は、その肉体と精神(心)の完成を目指して修業しているということにもなるし、そこには道があり、その道に従って修業していかなければならないということだろ。

それではその肉体と精神(心)が目指すべくものは何かということになる。
それは宇宙が万有万物を生成し、完成していく道である。
人間は宇宙の申し子であり、小宇宙とも云われるのである。人間は宇宙の運化と共にやっていかなければならないのである。

まず、宇宙万物は、天火水地の十字の交流によって生みだされる言霊の響きにより生成され、それに習うことが合気道であると教えられているのである。
この天火水地の十字の交流によって地球も生成される。天火水地とは、天は奇霊、火は荒霊、水は和霊、地は幸霊で、天と地が縦、火と水が横の十字で交流するのである。
これが一霊四魂で、「この働きにより三元八力が出てくる」(武産合気 P.100)のである。

三元とは、気、流、柔、剛で、その働きにイクムスビ(△)、タルムスビ(○)、タマツメムスビ(□)がある。これを霊的に見ると、△奇霊、荒霊 ○和霊 □幸霊であり、これを物質的に見ると、△天・火 ○水 □地となる。(武産合気P35)

つまり、「気を起して流体素、あらゆる動物の本性である。柔とは、柔体素で、植物の本性又肉体のように柔らかいものである。剛とは、剛体素。大地や岩石のような固いもの、鉱物の本性である。これらの上にあって、気によって活動している。気にも剛柔流の働きがある。そして動いている。

この三元八力が固体の世界を造り、人類社会もそれによって完成されてゆくのである。武道によってみれば、宇内のすべての運化にもとづいて稽古を続行しなければならない。(武産合気P100)

つまり、名人、達人たちは、宇内の運化にもとづいて稽古をされてこられたということになるだろう。
人間の肉体は、この三元の錬磨によって八力が働くようになるのである。開祖は、「体については三元八力という働きがある」と云われている。八力とは、動、静、解、疑、強、弱、合、分(開祖の言霊)による引力である。

開祖は、「この三元八力の引力によって、大地を全部固めしめて、一つの大きな全大宇宙という活動機関が出来上がった。」(武産合気)と云われており、人の肉体も、四魂から出てくるこの三元八力の引力によってつくり上げていかなければならないことになるはずである。

名人、達人が一見して分かるのは、開祖が、「この(△○□)鍛練により光と熱と力を生ず。これ、みな修練者の引力により来る。」と云われているように、名人、達人の光と熱と力から生じる引力とその光と熱と力を察知するからと考える。

天下水地の肉体をつくっていかなければならない。