【第522回】  死んで生まれ変われ

「合気道では、年ごとに、ことごとく技が変わっていくのが本義である」(「合気神髄」P 17)と教えられている。自分の得意なやり方など、一つのやり方だけにこだわったり、固執しては駄目だと言うことである。どんなに強くて上手な高段者であろうと、技は変わっていかなければならないということである。これを開祖は最後まで続け通しておられたわけだから、誰も反論を唱えることはできないはずである。
もし、去年と今年と技が変わっていなければ、この一年の稽古は失敗だったということになるわけである。

しかし、技を変えていくのも容易でないことも確かである。それは合気道の稽古は、相対で決められた形を掛け合って、くりかえしくりかえし稽古するわけだが、形を技と区別できないのである。それ故、形で相手を倒そうとしたり、抑えようとしてしまうのである。いつも書くように、形で相手は倒れないのである。それでも形でやろうとするから、形のかたちが変形したり、歪んでしまうのである。

形は変わってはいけないが、技は変わっていかなければならないのである。合気道の形は見ればわかるし、初心者でもできる。
技は宇宙の営みを形にしたものであるから無限にあることになる。高々、人一人の一生、人の一世代ですべてを身に着け得ることなどできない。
技は無限にあるわけだから、一つの技や有限の技に、これでいいと止まっていてはいけないわけである。どんどん変わって深めていかなければならないのである。

それでは技を変えていくためにはどうすればいいのかを考えなければならないだろう。
技を変えていくとは、一つの技を身につけたら、その上に更に新しい技を身につけるということであろう。
しかし、問題は、新しい技を身につけると、それに固執して、これでいいと思い、そこから変わろうと中々できないことである。

この問題は、文学の世界でもあるようで、かの有名なゲーテは、「死んで生まれ変われ」と言っていたようだ。これは脳学者の養老孟司さんが『老人の壁』で書かれた言葉であるが、「前の自分がいなくなって、新しい自分になるということです」ということである。
つまり、前のものをいったん殺さなければ、新しいものは生まれないということなのである。一つのものを後生大事にしていると、新しいものは生まれないし、技も変わっていかないのである。
一生懸命に会得した技でも、一度殺すのである。開祖は、今日、習ったことは忘れなさいと言われていた。

「死んで生まれ変われ」。 合気道の修行者もよく味わう言葉である。

参考文献: 『老人の壁』 養老孟司 南伸坊著  毎日新聞出版