【第521回】  時間を超越した速さ

合気道の修業の目標は、宇宙との一体化であると教わっている。極意を得た者は、腹中に宇宙のあるのを自覚し、己は宇宙であると思うというのである。 その合気道の極意を得た開祖は、「合気道の極意を会得した者は、宇宙がその腹中にあり、『我はすなわち宇宙』なのである」(合気神髄 p34)と言われているのである。

更に、開祖は、「そこには速いとか、遅いとかいう、時間の長さが存在しないのである。この時間を超越した速さを、正勝、吾勝、勝速日という」とも言われている。開祖は自らそれを体験されているのは周知の事実である。例えば、鉄砲の弾よりも速かった等である。

それでは、凡人我々が「時間を超越した速さ」を会得するにはどうすればいいのかを考えなければならないだろう。
不可能かもしれないが、先ずは努力すべきだろうし、そしてそれができないまでも、その目標に、一歩でも近づくようにしなければならないと思う。
何故ならば、「時間を超越した速さ」を会得するということは、合気道の極意である、宇宙との一体化ができるということだからである。

それでは、まず、「時間を超越した速さ」とは何かを考えてみなければならない。
合気道は相対で技を掛け合って稽古をしていくわけだが、技をつかう際に、力と共に技の速さで時間の感覚が養われるので、技の稽古でこの「時間を超越した速さ」を身につけていけるのではないかと考えている。

技を掛ける際に、体の動きや技の速さは、時と場合、相手により変えているはずである。初心者にまで、速い技をつかってしまえば、相手はついてこれないばかりか、怪我をさせてしまう。相手の実力に応じた速さで技をつかわなければならないわけである。
しかしながら、古くから稽古をしている上級者は、ほとんどの相手が自分より稽古年数が少なく、実力も低くなるので、相手にばかり合わせて稽古をすれば、技の速さはあるところから先に伸びないことになる。

技の速さを促進するのは、相手に依存しないことである。相手が誰であろうと、「時間を超越した速さ」の稽古をしなければならないと思う。
そのためには、力・体力の他に、気持ち・心とそして息づかいが大事であるだろう。

気持ちや心は、恐らく光よりも速いはずである。気持ちや心でそこを思えば、気持ちや心はそこにあるからである。月を思えば、その瞬間に到達しているのである。
しかし、問題は、心はいいとして、体を速く移動したり、動かすことができるかということである。合気道の場合は、心だけで相手は倒れてくれないわけで、体、つまり、体からの力によって相手は倒れるわけだから、体も速く動かなければならない。

体を速く動かすためには、体は理合いでつかわなければならないだろう。宇宙の法則に則ってつかうのである。例えば、陰陽、十字などである。
そしてもう一つは、息づかいであろう。イクムスビでひとつの技を収めるのである。

これらの稽古を、より速く、より正確にやっていけば、「時間を超越した速さ」に近づいていくのではないかと考えている。

実際、このような稽古を続けていると、不思議と技は速くも遅くも自由に掛けることができるようになるようである。どんなに遅く、ゆっくりした動きにも、いつでも迅速に切り替えることができるし、どんなに速い技の動きでも、即、一瞬に減速したり、止めることもできるのである。
まず、これが、「時間を超越した速さ」のスタートではないかと思う。