【第520回】  人には過去現在未来が入っている

合気道では、「過去―現在―未来は宇宙生命の変化の道筋で、すべて自己の体内にある」と教えられている。

確かに人は現在を少しでも楽しく生きようとするだけでなく、過去にも未来にも生きようとしている。過去の神話や昔話や物語、過去の偉人などに興味を持ち、感動したり、自分と重ね合わせてみたりするのはそのためだと思う。未来のマンガや映画を見たり、未来の物語や小説を読んでも、感動したり、共感するものだ。

人が今いる時間や場所以外のことに興味を持ち、理解できるということは、人の中には過去現在未来があるということだろう。

合気道では、過去現在未来が人の体内にあるということがわかるはずである。合気道は、その目標が宇宙との一体化である。過去―現在―未来は宇宙生命の変化の道筋であるから、過去現在未来を体内に取り入れようとしているのである。

合気道は宇宙の営みを形にした技を錬磨しながら精進しているわけだが、技が有効、つまり効くためには、過去現在未来を超越したものでなければならないのである。その場の相手だけに効いたり、今の時代の人に効くだけでなく、過去の人に対しても、また、未来の人にも効く、つまり、時代と場所を超越して有効でなければならないのである。

その為には、特定の相手や場所・時間で勝った負けたとか、強いの弱いのという、相対的な稽古や力に頼る魄の稽古をしてはならないわけである。自分との闘いの絶対的な稽古、魂の稽古や時間・空間を超越した宇宙の条理に則った稽古をしなければならないことになる。これを、開祖は「合気道とは、いいかえれば、万有万神の条理を明示するところの神示であらねばならないのである」といわれている。

実際に見たことも、生活したこともない過去と未来に感動したり、納得したり、理解できるのは、目に見えるものではなく、目には見えない「心」(魂)であろう。真の心(魂)こそが、時間や空間、そして次元を超越した万有万神の条理である、と考える。

人類は千古の昔、過去、現在、未来を胎蔵して、進化成長している。人は宇宙の歴史の138億年のこれまでの過去、そして何百億年後、何千億年後の未来の中のほんの一点に生きているわけだが、この宇宙の出来た最初から、この終焉の未来までの流れの中にあり、過去、現在、未来を胎蔵して、進化成長しているのである。

一般に、人は現在だけに生きていると思っているようだが、ミクロの世界で見てみれば、現在などない。今という現在はそう思った瞬間に、以前に思っていた未来に入っており、そして、その現在はすでに過去になってしまっているのである。今(現在)を見せてくれといっても、見せることは決してできないものなのである。

このミクロの世界で過去、現在、未来を見てみても、人は常に過去、現在、未来に生きていることになるわけである。

人は過去にも未来にも生きることができる。過去の人たちと対話をし、教えを乞い、お叱りを受ける等、過去に生き、未来に生きることもできれば、さらに楽しく生きることができるだろうし、合気道もおもしろくなるだろう。