【第501回】  合気道ふたつの宇宙観

合気道の修業の目標は宇宙との一体化である、という。そのために、宇宙の営みである宇宙の条理・法則に則った技を錬磨し、身につけていき、宇宙の営みが自己のうちにあるのを感得するように、稽古するのである。

宇宙は一元の大御神から霊魂と物質の根源である二元を生じ、このふたつの流れでつくられている。だが、いまだ未完成であるので、一元の大御神の意思である宇宙完成である宇宙天国建設に向かって生成化育している、と教わっている。

合気道の稽古同人は、その宇宙の意思である宇宙生成化育のため、そして、それを阻害するものを除くためにも、禊ぎをしなければならないのである。そのためには、まず宇宙の法則に則った技を身につけていかなければならない。

開祖は「合気道の極意は、己を宇宙の動きと調和させ、己を宇宙そのものと一致させることにある。合気道の極意を会得した者は、宇宙がその腹中にあり『我は即ち宇宙』なのである」(「武産合気」P.44)といわれている。

しかしながら、開祖ならお出来になったことだろうが、われわれ凡人には宇宙の動きと調和したり、宇宙そのものと一致するという極意を会得するのは、容易なことではないはずである。

合気道には、もう一つの宇宙観がある。少し長いが、開祖がいわれている宇宙観をここに記してみよう。「植芝の武産合気は、この木刀一振にも宇宙の妙精を悉く吸収するのです。この一剣に過去も現在も未来もすべて吸収されてしまうのです。宇宙も吸収されているのです。時間空間がないのです。億万劫の昔より発生した生命が、この一剣に生き々と生きているのです。古代に生きている私も生きていれば、現在の私もいる。永遠の生命が脈々と躍動しているのです」(「武産合気」P.36)

ここでは、宇宙を時間空間といわれている。つまり、過去、現在、未来という時間に、あらゆる空間(顕幽神界等)である。漢の哲学書「淮南子」(えなんじ)では、宇宙を時空であるといっている。宇とは、四方上下の空間であり、宙とは往古来近の時間という意味である。

開祖は、手に取られている一剣にも宇宙の妙精が吸収されており、そこには過去、現在、未来という時間と空間が吸収されている、といわれる。一剣の中にも今現在の開祖だけではなく、過去の開祖もおられるし未来の開祖もおられる、というのである。そして、この時間が吸収されていることを、時間空間がないといわれるのである。

この時間空間である宇宙を身につけるためには、己を万有万物が生じた億万劫の過去につなげ、過去にも生き、そして、宇宙完成への道にある未来にも生きなければならないだろう。

今稽古している技が過去に結びつかないようでは、未来にもつながらない。だから、その技もその本人も、宇宙を吸収することはできないことになる。過去の武人にも恥じないよう、そして、未来の後進の力にもなるよう、注意して精進していかなければならない。

時間空間である宇宙も身につけていくことによって、宇宙との一体化へ近づくのではないかと考える。