【第481回】  愛と武

開祖は、武がなければ世の中は滅びてしまう、といわれていた。なぜ武がなければ世の中は滅びてしまうのか。確かに、敵の攻撃に対してその矛を止められなければ滅びてしまうから、武はなければならないわけだが、開祖はそのような意味で武といわれていたのではないだろう。

開祖は、真の武のために合気道をつくられた。「合気道とは、真の武であり、愛のみ働きであります」といわれている。また、武道に対して「地上に平和をもたらすこと。これが正しい意味の武の道と呼ぶ」ともいわれているのである。つまり、合気道は真の武であり、愛のみ働であり、地上に平和をもたらすもの、ということになるだろう。

しかし、これではまだ武の意味がはっきりしないだろう。武と愛と地上平和の関係がつかめないからである。そこで、それらの関係を私なりに解釈してみると、地上に平和をもたらすものは愛であり、その愛を守るものが武である、ということになる。

地上の平和ということは、争いのない世界であり、地上楽園ということで、誰もが想い浮かべることができるだろう。だが、それを守る「愛」というのがわかりにくいのではないだろうか。

「愛」については、専門家たちがいろいろな解釈や説明をするだろうが、私は簡単に「愛とは、相手の立場で考え、行動すること」と定義する。そこで、この定義で話を進めることにする。

要は、この「相手の立場で考え、行動すること」の愛がないために、世の中、世界のあちこちで争いが起こり、平和が乱れている、ということになるだろう。合気道は地上平和、宇宙楽園(万有万物の平和)のために、愛が働くような世の中にしていかなければならないのである。

開祖は、経済の世界でも愛は大事である、といわれている。「世の中は、すべて根本は経済であります。経済が安定してはじめて、そこに道が拓けるのであります。我が国の経済は精神と物質と一如であります。日本では『売る』方が先であり、日本のすべて『誠』を売り込む、『愛』を売り込むのであります」というのである。

つまり、儲けるために商売をやるのではなく、買い手が少しでも多く喜び、満足するもの、つまり、愛と誠を売り込む、というのである。その結果、相手が満足してくれて、お金が入るわけである。

また、教育なども知識や技術だけを教えるのでなく、愛で教えなければならない。教わる者に知識や技術が少しでもよく身につき、満足してくれるように、教えなければならないのである。

開祖は、武道においても愛でやらなければいけない、と次のようにいわれている。「武道におきましても、まず愛を売り込み、人の心を呼び出すのであります」(合気神髄)

まずは、合気道家が稽古を通して、愛を売り込むことにより稽古相手の心を呼び出すことができる、ということを悟る。次には、ビジネスや教育の世界でも愛を売り込む。そして、世の中の人、世界中の人たちの心を呼び出すことができるようになれば、よい世の中へと進み、開祖もお喜びになられることだろう。