【第470回】  心魂の禊

前回の第469回「こころを禊ぐ」では、合気は禊であり、こころを禊ぐ稽古をしていけば、技もだいぶ効くようになる、と書いた。そして「自己のこころを直すことが合気の使命 自己自身の使命」とも書いた。それでは、己のこころを直すのは何か、どうすればよいのか、ということになる。

己のこころに、それでよいとか、そこはだめだから直せ、など何かがこころに語りかけることがあるのは、おそらく多くの人が感得しているであろう。日常生活においても、また、合気道の稽古でも、語りかけてくれるものがある。もうひとつのこころが、こころに語りかけてくるのである。

日常では、通常のこころで生活したり稽古しているのであるが、もう一つのこころからは、良し悪しの判断や、修正・改善命令が伝わってくる。こころはもう一つのこころの言うことを聞いたり、あるいは無視したりすることもある。時には聞こうか聞くまいかで迷うこともあるので、これがこころの葛藤ということなのだろうと思う。だから、こころは二つあるともいえるだろう。

それでは、この二つのこころは、どこが違うのだろうか。学問的な事は心理学者や脳学者に任せることにして、ここでは合気道的に考えてみる。

そこで、一つは顕界のこころ、もう一つは幽界のこころ、と分けてみようと思う。顕界のこころとは、時代や社会や環境によって働き、自己防衛・自己繁栄を基調にして働くこころである。

もう一つのこころとは、宇宙楽園建設のため、また、万有万物の生成化育のために働くこころであり、時間や場所を超越した絶対なる愛善の御心であろう。

従って、顕界のこころを監視し指示を与える幽界のこころは、合気道でいわれている魂ということにもなり、宇宙とつながる宇宙のこころ、ということになるはずである。開祖は「魂の力をもって自己を整える」という言葉もつかわれているから、この魂は幽界のこころということになろう。

この幽界のこころである魂で、顕界のこころを立て直す、つまり禊いでいくのである。だが、合気道ではさらに、宇宙の気、オノコロ島の気、森羅万象の気を貫いて、息吹き、オノコロ島に発生したすべての物の気である天の村雲九鬼さむはら竜王の御剣を通して、幽界のこころである、本当の自己のこころを立て直さなければならない、といわれている。

つまり、まずは顕界のこころを幽界のこころで立て直すのであるが、大事なことは、天の村雲九鬼さむはら竜王の御剣によって、本当の自己のこころ(幽界のこころ・魂)から立て直さなければならない、ということである。これが、宇宙の営みに則ったこころと魂の禊であり、これを開祖は「自己のこころは自己のこころで祓い、御剣を通して本当の自己のこころから立て直す。これが大神に神習う心魂の禊である」(『武産合気』といわれているのである。