【第467回】
生産びで仕事をする
開祖は、日本には太古からの教えがあり、それを稽古するのが合気道である、といわれている。そして、その教えのひとつに「生産び」(いくむすび)という呼吸法があり、この呼吸で自分の仕事をしなければならない、といわれているのである。
従って、合気道の技の錬磨の稽古においては、技はすべてこの息づかいでやらなければならない、ということになる。
以前、この生産びの重要さに気がついて論文に書いたことがある。その後、自分でも実践し、稽古相手の息づかいなど観察してきて、この生産びで技を使わなければ力も出ないし、技も効かない、ということを確信するようになった。
「生産び」を再確認する意味で書くと、「イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」(『合気神髄』)というものである。これでは抽象的で解りづらいようなので、合気道の技をつかう場合(仕事をする場合)で説明してみる。
- イと吐く:相対稽古で受けの相手と対峙して、相手に手を取らせたり、打たせたり、突かせたりするが、相手に接する際に息をイと吐く。イと吐くのは腹式呼吸で腹から息を出す。これで、相手の力や勢いに惑わされず、そして、相手とくっつき、結ぶことができるようになる。逆に、ここで息を吸ってしまえば、相手の力を呼び込んでしまい、力負けしてしまうはずである。
ちなみに、イと吐かないで、それ以外のア、ウ、エ、オで吐くと、次のクで息を吸うのが難しく、やはりイで吐くのがよいようだ。これは、次の、ク、ム、スでも同じだろう。
- クと吸う:相手とイで結んだら、クと吸いながら、相手を自分の円の中に入れていくことができるようになる。これは、胸式呼吸でやるのである。初心者はここで逆に息を吐いてしまうようである。クと息を吸うのは必須であり、重要である。なぜなら、クで吸うことによって、相手とくっつき離れにくくなるし、この引く息によって、力加減や拍子などを自由に調節できるからである。開祖も「引く息は自由である」といわれているが、実際その通りである。
- ムと吐く:相手を投げたり、抑える際には、ムと吐く。腹で、腹式呼吸で吐くのである。ムはウが母音となることから、力と心(魄と魂)の両方が集中するはずである。心と体のすべてが相手との接点に集中するのである。
- スと吸う:相手を投げたり、抑えたら、相手から離れなければならないが、その離れる際は、スと息を吸いながら離れなければならない。スーと離れるわけである。これには、横の胸式呼吸を使う。
従って、息は縦の腹式呼吸、横の胸式呼吸、縦の腹式呼吸、横の胸式呼吸と、十字につかうことになる。
そして、次の仕事(技をかける)に戻るので、また、イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸って相手から離れる、と続くのである。
名人になれば一息で技をつかうといわれるから、生産びの息づかいではないかもしれないが、まずは、この生産びの息づかいを身につけるべきだろう。しっかり身につくまでは、技を使う際に意識したり、口で唱えながらやるのがよいだろう。
また、相対稽古での技づかいだけでなく、稽古の前にある基本準備運動なども、この生産びの息づかいでやらなければならないと思う。まずは、基本準備運動を一人稽古で、この生産びができるようにするのがよいだろう。
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