【第42回】 日々のわざの稽古に心せよ一を以て萬に当るぞ武夫の道(道歌)

人は一瞬一瞬、そのとき、その所で生きていて、同時に二箇所以上で生きることはできない。従って、人は二つ以上のことを同時にはできないので、あれもこれもとやりたいことを全てはできない。やりたいことすべてをやることは、限られた時間しかない人間には不可能である。

しかし、人にはだれでもやりたいことや知りたいことが沢山あるものだ。合気道や武道、日常生活の事以外にも、例えば、自分は何者なのか、人はどこから来てどこに行くのか、地球や宇宙はどうなるのか、我々は何をしなければならないのか、等々知りたいことも多い。

限られた時間とエネルギーと能力で、できるだけ多くのものを知り、体験するためには、一つのことに集中してやることであろう。そこから人類が必要としている原理原則、真理を見つけて身に着けていくことである。偉人と言われる人や名人、達人は、沢山の諸々のことをやったのではなく、一つのことを専門に深く探求することによって宇宙、自然の原理原則、真理を見つけたのである。

合気道には人が追求すべき原理原則、真理がある。合気道はその目的にいたるための秘儀であるともいわれる。従って、技の稽古は萬に適用できる原理原則、真理を得るように修練していかなければならない。ただ相手を倒したり、決めたりしているだけでは駄目である。一つの小さい原理原則、真理はすべてに適用できるわけだから、一つの小さな原理原則、真理が分かったといことは、無限の扉を開いたことにもなるわけで、いろいろなことが分かったことになる。それを日々の稽古で積み重ねていけば、年月と努力を重ねれば相当のものが分かってくるはずである。合気道家が世の中のこと、自分のこと、人、自然、宇宙などを知る方法は、これを意識した日々の稽古であろう。

道歌に、「日々のわざの稽古に心せよ一を以て萬に当るぞ武夫の道」とある。