【第376回】 自己を知る

合気道は人に勝つためではなく、自己の使命、与えられた宇宙の使命に、勝つことであるといわれている。そして、使命に勝つ自己を知るために、合気道をやるのである。「合気道を体得したならば、宇宙条理が分り、自己をよく知り分ってくる」(合気真髄)のである。

しかし、合気道の修行も道半ばでは、この自己とはなにかを知るのは難しい。それで、他の分野の知恵もお借りして、考えてみることにしよう。

深層心理学者のユングは、自己と自我を対比させて「自己は心の全体性であり、また同時にその中心である。これは自我と一致するものでなく、大きい円が小さい円を含むように、自我を包括する」といっている。

「自我」を正確にコントロールするのは、「自己」であるようだ。また、「自己は自分個人のことだけでなく、他の人びととのつながりを有するものである」ともいっている。

また、「意識の中の中心に自我(ego)があり、無意識を含めた心の全体の中の中心には自己(self)があると考えられている」ともある。

このことから、自己とは、意識と無意識を含めた心の全体性であり、心の中心であり、自我を包括し自我を導き、他の人々とのつながりがあるもの、ということになるだろう。

今度は、これを基に、合気道での自己を考えてみたいと思う。開祖は、剣一本動かすにも自己が全部はいり、宇宙に同化している、といわれた。そのためには、人間の「根本義」が完成されてなければならないし、完成されなければ邪剣となる、とのことである。そして、この根本義を開祖は、真善美を基に、志操、篤実、品行方正にして、慈善心、至誠心を保つことであるといわれる。

ここから、開祖の言われる自己とは、人間の根本義を有するものということができよう。そして自己を「この根本義の発育に精進し、ますます智恵聡明にして鋭敏なるよう」(合気真髄)、修行していかなければならないと言われているのだ。

自己は、宇宙から与えられた根本義を入れるものであり、分身分業で宇宙の使命である自己使命を果たすために、宇宙天国建設、世界大平和への生成化育を推進するものである。宇宙の大御心の至純、至美、至真、至善に本能的、無意識に向かっていくのは、人が共有して持つものである。人が宇宙の根本義を無意識で求めていることにより、すべての人間は繋がることになるわけである。

このようなことを、自己を知るということになるのだろう。合気道では、宇宙の条理を形にした技を練磨して、宇宙と結ぼうとするわけだが、その宇宙の心と結ぶものは、自己ということになると考える。だから、自己を知ることが大事なのである。

参考文献  「合気真髄」