【第369回】 大地の息と交流

技の練磨により、合気道は上達していくが、この合気道の技は宇宙の営みを形にしたものであると教えられている。従って、上達していくためには、宇宙の営みがわからなければならない。宇宙の営みが解るためには、宇宙や自然を観察したり、「合気真髄」「武産合気」や古事記のような古典を勉強したり、また最新の宇宙科学を研究しなければならない。

そして、学んだことを、合気の技の練磨に取り入れて行くのである。宇宙の営み、宇宙の条理からなる合気の業と技を身につけることによって、宇宙に近づいていくのである。これを開祖は「合気は宇宙組織を我が体内に造りあげていくのです」と言われている。

人は小宇宙ともいわれるように、宇宙と人は深い関係があり、そしてつながっている。少し注意して両者を見ると、人は宇宙と同じような営みをしていることが解る。

その典型的なものは、呼吸であろう。人は呼吸をしている。呼吸がなくなれば生きていけない。天地も呼吸をしていると開祖が言われるように、確かに天地は呼吸している。

天の呼吸とは縦(上下)の呼吸、地の呼吸とは横の呼吸といえよう。天の呼吸は、例えば、雨が天から下に降り、そしてまた水蒸気として上に上がっていくことを考えればよいだろう。雨に限らず、上下(縦)に天は呼吸をしている。

地の呼吸は、塩満の珠(赤玉)、塩干の珠(白玉)ともいわれ、縦の上下の垂直に対して、横方向の水平の呼吸である。天と地は、縦と横の十字に呼吸しているわけである。

人も呼吸をしている。「合気道の体をつくる」第367回で書いたように、人は腹式呼吸と胸式呼吸をしているから、合気道上達のためには、腹式呼吸を縦、胸式呼吸を横と十字の呼吸になるように、体内につくりあげていかなければならない。

縦(腹式呼吸)と胸式呼吸(横)の十字の呼吸を体内に構築できても、それだけでは業と技にはうまくつかえない。もうひとつ大事なことを、体内につくりあげなければならない。それは、「生産びの呼吸法」である。「イ」と吐いて、「ク」と吸って、「ム」と吐くのである。

つまり、@縦の腹式呼吸で息を吐き A横の胸式呼吸で息を吸い B縦の腹式呼吸で息を吐く、のである。この十字の呼吸と、生産びの呼吸法が、大地の息と交流すると、それまでとは質的・量的に大きく違う力が出てくる。魄の力を脱するためには、不可欠な息遣いであるだろう。

この息遣いは、技だけに適合するものではなく、いうなれば、基本的にはすべての技と業に適合すると考える。例えば、ストレッチ運動をする場合も、まず、腹式呼吸で吐きながら力を少し加えたら、次は胸式呼吸で息を吸いながら落としたり、力を加え、最後に腹式呼吸で吐きながら落とす、または力を加えるのである。

剣の素振りも、同じことである。特に、重い鍛錬棒などはこの息遣いでやらなければ、体を壊してしまう。しかし、一般的には腹式呼吸で縦―縦―縦で力を加えたり、技をかけていることが多いように思える。

開祖が言われている「日月の気と天の呼吸と地の呼吸、潮の干満との四つの宝を理解せねばいけないのです。塩満の珠、塩干の珠は大地の呼吸である。草薙の御神剣発動、宇宙の真理、天の息、日月結んで大地の息と交流して人の心に入る」(合気真髄)を肝に銘じ、これらの宇宙組織を自分の体内につくりあげていかなければならない。