【第359回】 合気道は真の武道

開祖は、合気道は武道の基であり真の武道であるといわれていた。かつては柔道、剣道、居合道、空手道、相撲道など等の高段者や猛者が、開祖の弟子となって合気道を修行されたものであるが、その道をさらに進むための何かが合気道の中にあったということであろう。

合気道には武道に共通する大事なものがあるはずであり、合気道にはそれがあるから武道の基、真の武道ともいわれるのだろう。開祖は「一芸に通ずるは万般に秀でるという如く、真の武道はすべてに通じなければならない」といわれている。

武道は大きく分ければ、3つのタイプに分けられるだろう。柔道や相撲のように組み合うもの、空手のように打突で相手を制するもの、剣や杖や槍などの得物で敵を制するものである。合気道には、この3つのタイプの武道の要素があるということになる。

従って、合気道の修行にあたっては、掴んだり組み合ってくるものに対する稽古、打突とそれをかわす稽古、そして、得物をかわす稽古と得物を使う稽古、をしなければならないことになる。

掴まれたり組み合ってくる相手を崩したり投げる稽古は、合気道の通常の稽古の中にふんだんにあるから、それを意識してやればよい。肩取り、胸取りなど体のどこを掴まれても、相手を崩したり抑えることである。

また、掴みにくる相手を自分の円の動きの中に入れれば、大体の場合は相手の体は自分の腰に密着してくるはずであるから、腰で投げることができるだろう。相手が自分の腰にのるよう意識して、技と体をつかって稽古をしていくのである。さらに、相手を投げたければ、「腰投げ」を稽古すればよい。

合気道の基本技である1〜5教、入身投げ、小手返しなども、腰にのせて投げようと思えば投げられるので、腰投げの稽古にもなる。しかし、よほど足腰がしっかりしていないと腰を痛めるので、注意しなければならない。

また、注意しなければならないこととして、合気道では攻めは絶対にないから、柔道のようにこちらから相手を引きこんだり組み合ったりはしないことである。更に、合気道は一人を相手にしているのではなく、複数の敵に対処できなければならないので、一人だけに構っていないで、そして一瞬で相手を崩したり抑え込んでいなければならない。

次に、打突の稽古であるが、これは合気道では当て身ということになる。昇段試験では突きをさばく技があるが、実際には自分が十分に突いたり打つことができなければ、さばけるはずもない。当て身の稽古も心がけなければならない。

当て身は、合気道の普段の稽古の中にある。40,50年前までは、ほとんどの稽古人が当て身を入れながら稽古していたものだが、最近では当て身を入れながら稽古する人をほとんど目にしなくなってしまったのは残念である。当て身は容易ではないが、当て身が入るような技と体の使い方をしていかなければ、上達は頭打ちになるだろう。

合気道の技は、当て身が無理なく入るような心体の使い方をしなければ、効かないものである。無理なく自然に当て身を入れるには、手を左右陰陽交互で使わなければならない。また当て身を入れることによって、手を左右交互に陰陽で使うことを身につけることができることになる。

当て身には、相手に手を持たれた時の最初の仮当てから、入身投げなどで相手の後ろに入身する際の当て身、小手返しなどで相手の気を殺ぐ顔面への当て身などいろいろある。昔は、一つの技(技の形)を収めるまでには最低3つの当て身が入るのだから、3つ以上の当て身を入れるように稽古しろ、と教わったものだ。

しかし、当て身の稽古は簡単ではない。当て身が難しいこともあるが、下手にやれば相手を怒らせてしまい、稽古にならないからである。稽古は敵を作ってはいけないわけだが、当て身の稽古もしなければならないのだから、どうにかしなければならない。

一つの方法は、気心の知れた稽古仲間と当て身の稽古をすることである。多少うまくいかなくとも、あるいは痛くても、許し合えるはずだから、遠慮なく当て身の稽古ができるだろう。

では、稽古仲間でなければ当て身の稽古はできないかというと、そうでもない。どんな相手とも当て身の稽古はできるはずである。それは気持ち、心優先の当て身の稽古である。相手にダメージを与えようとか、自分の強さやうまさをアピールしようなどと、相手を意識するのではなく、あくまでも技の練磨、当て身の探求のために稽古することである。

そのためには、手も足も左右交互に陰陽で使うなど、法則に則った動きを、息と気持ちでやるのである。当て身で接する相手の体は紙一重のところであり、そのため、相手にはこちらの手による衝撃はないが、そこから出てくるエネルギーを感じるはずである。もちろん、当て身が本当に入ったならば一撃必殺となる、という気持ちを内に秘めていなければならない。

当て身ができるようになってくれば、敵の突きや打ちをさばくことができるようになる。自分で当て身ができないと、敵の打突をさばくこともできないだろう。真の武道、真の合気道を追及するなら、当て身の稽古もすべきである。

掴ませたり、組み合ってくるものに対する稽古、打突の稽古の二つで、字数が限界になってしまったので、三つ目の得物の稽古は、次回とする。