【第341回】 右脳と合気道(その2)

人の大脳には右脳と左脳があって、それぞれ異なる役割があるということである。脳に関しては、医学的にもよく分からないことが多いが、その役割や働きの主なものと思われることをまとめてみると、次のような説明になろう。

左脳も右脳も人間にとっては必要不可欠なものであり、ともに大事であるわけだが、合気道の修行の目的を達成するためには、とりわけ右脳を大事にして、つかっていかなければならないと思われるのである。

合気道の修行の目標は、宇宙との一体化であるはずである。テイラー博士(第339回「右脳と合気道」参照)が体験したという宇宙エネルギーとの一体化は、右脳の働きによるということである。左脳が主に働くと、個人という自我が強調されることになりやすいというが、その場合には、他と競争したり争うことが起きやすくなるだろう。それは、合気道の精神に反することである。

では、合気道でどうすれば右脳を使うか、または、鍛えることができるのか、を考えてみたいと思う。

そのためには、上記の左脳と右脳の役割と働きで、左脳の働きを抑え、右脳の働きを促進するようにすればよいのではないだろうか。
  1. 論理的世界、見える世界ではなく、感覚的世界、見えない世界で稽古をする。
    相手が大きいとか、力がありそうとかいうことに注意をむけて稽古するのではなく、相手の心を見て、相手の心を動かし、それに相手の体がついてくるような稽古をする。
    腕力から呼吸力、そして“見えない世界の力”をつかうということだろう。
  2. 相手と力で争うのではなく、相手と結んで一体化し、共に気持ちよく動けるような稽古をする。愛で稽古をする。(愛とは相手の立場になって考え、行動すること)
  3. 稽古の始まる前に、世俗のことを忘れ、「今」に集中、没頭する。
    会社の仕事のこと、家庭の問題など過去未来をすべて忘れて、稽古モードに入ることである。往々にして世俗の問題が大きいと、なかなか右脳は働いてくれないから、世俗のことを稽古の始まる前までに忘れるようにしなければならない。そのためには、儀式が必要となる。道場の建物に入るときの挨拶、道場に入場するときのお辞儀、稽古を始めるときの儀礼など、こころを込めてすることである。道場に来てまで会社や世間のことをぺちゃくちゃしゃべっているようでは、右脳は働いてくれない。
  4. 正しい息遣い。呼吸。
    お辞儀、挨拶などでの儀式でも、息遣いは大事である。頭を下げながら息を入れ、頭が止まったところで息を吐き、上げるときは吸うのである。
    もちろん、技を使う場合も息遣いがうまくいかなければ、技は乱れるし、息は苦しくなるだろうから、右脳は働かないことになるだろう。
    呼吸が右脳の世界へ導いてくれるともいわれるように、呼吸は重要である。
  5. 右脳を働かすためのトレーニングには、瞑想、呼吸、イメージなどがあげられる。密教、ヨガ、真言宗などでは、このような方法をつかって右脳トレーニングをしているように思われる。
    これを合気道に当てはめてみると、呼吸は4.で述べたとおりであるが、瞑想という面でも、合気道は動く禅といわれることがあるように、動きながら瞑想しているようなものであろう。宇宙との一体化、宇宙の響きを感ずべく、すべてを忘れ、無心になって稽古をすれば、それが瞑想になり、右脳を鍛えることになるだろう。
    合気道では、イメージも大事である。写真や動画で見ることができる開祖や先達の技や動きをイメージし、少しでも近づくべく稽古していくことで、自分の理想のイメージを描いて稽古できるはずである。また、開祖の難解な文章やお話も、イメージを膨らませなければ身につかないので、これもイメージトレーニングになっているわけである。
つまり、合気道では、本来、右脳トレーニングが行われていることになる。合気道を続けていけば、右脳が鍛えられ、開祖やテイラー博士が到達された宇宙との一体化ができるかも知れないという希望が持てるのではないだろうか。