【第34回】 ぶつかってぶつからない

合気道の技の稽古でまずやらなければならないこと、必要なことは、"気の体当たり、体の体当たり"である。最近はそんなことをいう人もいなくなったようだが、以前はよく耳にしたものだ。初心者など呼吸力もなく、技もよくできなければ、先輩や体力のある人と稽古をやるとなると、この"気の体当たり、体の体当たり"しかないだろう。

しかし、同時に合気道の技をかけるときは、"ぶつかってぶつからない"ようにやれとも言われる。この二つのことは一見すると矛盾であり、まるで禅問答である。

気も体も体当たりしてぶつかれば、"ぶつかる"のが日常で普通であるが、合気道の稽古は非日常の世界のことである。本当の稽古は、"ぶつかってぶつからない"から始まるとも言えるであろう。"気の体当たり、体の体当たり"は、その中に入っていなければならない。

"ぶつかってぶつからない"技や動きをするための条件、要素は沢山あるだろうが、最も大切なことは"むすび"であろう。
通常は、ぶつからないで逃げてしまうか、ぶつかり過ぎて相手の領分を侵してしまい、一緒になることなく争ってしまうことになる。"むすぶ"ためには、気と体を相手との接点に集中し、押しも押されもしない状態にすることである。これが開祖が言われる"天の浮橋"の状態ではないだろうか。

"ぶつかってぶつからない"のは相手と触れた瞬間だけでなく、一つの技を収めるまで続けなければならない。つまり、この"むすび"が最後まで切れないようにしなければならないし、また、相手が離れようと思っても、その"むすび"が解けないようでなければならない。