【第316回】 超人的な力、宇宙の力をお借りする

合気道を修行している人は、おそらく誰もが夢をもってはじめたはずである。少なくとも私はそうだった。合気道の技を身につければ、大の男をチョチョイがチョイと押さえ込んだり、投げたり、また気合いで相手を吹っ飛ばすことができるようになれるのではないか、そうなりたいと思って入門したと思う。その内に厳しい稽古で、段々と現実にもどされ、夢が消えていってしまったようだ。

しかし、夢は持ち続けるべきだろう。大の男に小が敵わないとか、腕力には敵わないということで終わってしまえば、武道の意味がないし、世の中面白くもない。小が大を制し、力を制するから、武道は面白い。しかし、それでは大の人や力持ちの立つ瀬がない。もちろん、大の人も力持ちも、武道はやりたいだろうし、やるべきだと思う。

武道として合気道を学ぶのは、大の人、力持ちも、夢があるからだと考える。それは、自分にどんどん力がつき、外からもまた自分自身でさえ想像もできないような、自分を超越した、超人的な力を出すことであろう。

しかし、これは漫画のようにトントンとはいかない。そこへ行くための通るべき過程がある。

まず、自分の心体を最大限活用し、最大の力を養成することである。しかし、その内に自分の力には限界があることがわかってくるだろう。

次に、合気道の形を通して術を身につける。術とはテクニックである。テクニックというのはまだ人為的な行為であるから、これにも限度がある。形稽古をしているうちは術止まりといえるから、ここから脱却しなければならない。

そこで、今度は人為的ではない、宇宙の法則に則った「技」を身につけなければならなくなる。「技」は術と違って、人為的につくるものではなく、すでに宇宙にあるものである。それを見つけ出し、会得することである。宇宙の力を借りることになるし、宇宙と一体化するのである。

自分の力だけでは、大したことはできない。人間が考えた術などは限界がある。大きな働きをしたければ宇宙の力をお借りしなければならないはずである。無意識のうちに、この超人的なものに憧れて、夢見て武道の稽古、合気道を始め、そして続けているはずである。

合気道での相対稽古で、超人的なもの、自分以外の力を借りて出し、技を生みだすとは、具体的にどのようなものであるか、それは次回にしよう。