【第276回】 息

技の練磨をして精進していく合気道において、息の遣い方は非常に大事である。息の遣い方がまずければ、技がうまくいかないだけでなく、力も出ないし、息も上がり、最悪の場合は体を壊してしまうことにもなるだろう。

もちろん、他の武道やスポーツ、又は踊りや演奏でも、息遣いは大事であるが、合気道の息遣いは、宇宙の営みに合わせなければならない、という教えに従わなければならないほど、精妙なものである。つまり、開祖は「水火のむすび、つまり天の呼吸と地の呼吸とを合し、一つの息として産み出してゆくのを武産合気というのであります。」と言われているのである。

それでは、天地の呼吸に自分の息をどのように合わせていけばいいのかということになる。

技を掛ける場合、息は吐いたり吸ったりするわけだが、それは日常生活の場でもやっていることである。しかし、日常生活での息遣いを、技を掛けるときにもやっていたのでは、よい技はできないので、技は効かないはずである。

しかしながら、有難いことに、開祖が息遣いをどうすればよいのか言い残されているから、その開祖の言葉から理を究め、技で試し、会得していくのが最善の道と考える。

開祖は、まず、天の呼吸と息を合わせなければならないと言われている。それから天(日月)の呼吸と地の呼吸(潮の満干)との交流をせよという。曰く「天地の呼吸は、赤玉も白玉も日月の合気によって、生命を現すのです。日月の呼吸と潮の満干の交流で、生命を造るのです。」

従って、技を掛ける際は、相手に触れるまでは息を吐く。静かに円く、ごつごつしたり、殺伐としないように吐く。これが、天(日月)の気(息)との合気ということになろう。これで、相手と結んでしまうことになる。

次に、相手と接したところから、下腹に息を入れていく(開祖はこれを息をひくと言われている)。息を入れることによって、相手をくっつけてしまう引力ができるので、相手と一体化することができるようになる。  

最後に、投げたり抑える際に、息を吐く。そして、この吐いた息は下腹(地)に収めるのである。

これを開祖は、「はく息は である。ひく息は である。腹中に を収め、自己の呼吸によって の上に収めるのです。」と言われている。なお、はく息 の米とひく息 の米は、引力(八大力)だと考える。

これが宇宙の営み、つまり自然な理の呼吸であり、この呼吸を身につけることによって技ができていくことになる、といわれていると考える。

参考文献  『武産合気』 植芝盛平翁口述