【第272回】 二重螺旋と技のずれ

技を練磨して上達していく合気道は、体の遣い方が重要である。体の遣い方をうまくしないと、宇宙の法則に則っていると言われる技が身につかないからである。体は骨格や筋肉など、多くの部位から構成されているが、すべての部位を上手に働かせなければ、よい仕事はできないはずである。

まずは、手足がうまく働いてくれなければならない。手がうまく動くだけでなく、足にもうまく動いてもらわなければならないし、その上、足と手が連動して動かなければならない。

しかし、手と足が連動して動くというのは、まず、いわゆるナンバで同じ側の手と足を同時に上げたり、下ろすことであるが、これだけではロボットのような動きとなってしまい、力も出ないし、微妙な動きもできないし、また相手に動きを察知され頑張られてしまうなど、技として効かないものである。

世の中の多くのものは、何か出力したり、動作をする場合、2つ、3つのものを組み合わせて使うことが多いが、それらを少しづつずらせて使っていると思える。例えば、自転車のペダルは上下180度に分けてついており、ペダルを踏む時はそれを90度ずれ落ちた時に力が出るようにできている。また、スキーも直滑降は難しいのでジグザグに降りるが、重心はスキーに対して左か右へずらし、そのずれをスキーの回転運動で補いながら滑るという。アイススケートも同じである。このずらしでよく知られているのが、バレーボールでの時間差攻撃であろう。

合気道の相対稽古で技を掛ける場合、手と足を同時に使っても思うような結果は出ないもので、そこにはやはりずれが必要であるようだ。

どの技にも手と足のずれが必要であるが、それが一番わかりやすい技に「二教裏」がある。誰もが経験するように、最後の決めで、前の足と同じ側の手を一緒に力を込めて落とそうとしても、なかなか決まらないものである。これは、手と足をバラバラか同時に使っているからと言ってもいいだろう。

手と足はナンバで使うものの、ほとんど同時ではあるがずらして使わなければならない。「諸手取り二教(交叉取り)」で説明してみると、まず、腹と手足をしっかり結び、弛まないようにしてから、腰腹で足を進めて着地し、少しずれて手が足の側に振られ、その手の一瞬前に足が反対側に進んでおり、その足の後に手が続く。

ここで後ろ足に重心が移ると、相手を抑えている手が上がってくるので、その手で切り落とすのである。つまり、腰腹、足、手の動きに時間のずれが生じるのである。

この腰腹と結んだ手と足が螺旋で絡み合っている動きは、二本のひもが絡み合い、しかもずれながら動くDNA(遺伝子)の二重螺旋のイメージと一致するように思える。

二重螺旋と同様、合気道の技のずれも宇宙の営みに合致しているはずである。